スカンジナビア航空事件(変更解約告知)

スカンジナビア航空事件 事件の経緯

会社の経営状態が悪化し、赤字決算が続いて、年々赤字額が増大していました。

その改善を図るために、会社は希望退職者を募集したりして、経営の合理化を進めたのですが、効果が不十分で、更にコスト削減を進める必要がありました。

再建策として、会社は早期退職の募集と再雇用の提案を行いました。早期退職の募集に当たっては通常の退職金に加算して割増金を支給して、新しい労働条件で再雇用するというもので、新しい労働条件は、@1年間の有期雇用、A年俸制の導入、B労働時間の変更、C年次有給休暇の付与日数の変更、D退職金制度の変更などで、労働条件を引き下げる内容でした。

多数の従業員は会社の提案を受け入れたのですが、一部の従業員は労働条件を維持することを希望して、受け入れを拒否しました。

会社は提案を拒否した従業員に対して、再度、新しい労働条件で再雇用することを約束して、解雇予告の意思表示をしました。いわゆる「変更解約告知」と言われるものです。

しかし、従業員は再雇用の申し入れをしませんでした。その結果、会社は従業員を解雇しました。

これに対して従業員が、解雇の無効を主張して、従業員としての地位が存在することの確認を求めて、会社を提訴しました。

スカンジナビア航空事件 判決の概要

会社と従業員の雇用契約によって、職務内容や勤務地が特定されて、賃金や労働時間等が重要な労働条件となっている。会社が合理化を実施して、従業員の職務内容、勤務地、賃金、労働時間等を変更するためには、各人から同意を得ることが必要である。

そのため、同意をしなかった従業員については、会社が一方的に労働条件を不利益に変更することはできない。

しかし、次の条件を全て満たしている場合は、会社は新しい労働契約の締結の申込みに応じない従業員を解雇できると考えられる。

  1. 従業員の労働条件を変更することが、会社の運営にとって必要不可欠である。
  2. その必要性が労働条件の変更によって従業員が受ける不利益を上回っている。
  3. 新しい労働契約の締結の申込みに応じない者を解雇しても、やむを得ないと認められる。
  4. 解雇を回避するための努力が十分に尽くされている。

本件においては、年々赤字が増大していく一方で、抜本的な合理化を早急に実施する必要に迫られて、全面的な人員整理や組織再編が必要で、従業員の職務内容や勤務場所の変更が必要となった。

労働条件の変更には、賃金体系の変更、退職金制度の変更、労働時間の変更が含まれるが、次のとおり、いずれもその変更には高度の必要性が認められる。

  1. 従来の賃金体系は、全体の賃金水準が高過ぎる。他の類似企業の賃金の実態を加味しつつ、是正する必要があった。
  2. 退職金制度については、従来の退職金が、年功に応じて高騰し続ける基本給に勤続年数に応じた係数を乗じて算出するものであったため、その支給水準は著しく高額であった。また、従業員数が合理化によって約3分の1に激減した状態では、従来の退職年金制度では整合が取れなくなって、新しい退職金制度を設ける必要があった。
  3. 労働時間については、新しい組織における業務内容の変化に応じて、労働時間も一部で延長、一部で短縮する必要があった。

一方、新しい雇用契約の締結によって、従業員が受ける不利益について検討する。賃金体系の変更によって、従業員の賃金が総体的に切り下げられる不利益を受けることは明らかであるが、新しい賃金(年俸)と従来の賃金を比較すると、新しい賃金(年俸)は従来の賃金(月額)に12月を乗じた金額を全ての者が下回るものではない。

また、従業員が新しい労働条件で雇用契約を締結する場合は、会社はその代償措置として、従来の規定による退職金に加算して、相当額の割増退職金を支給していた。これらを考慮すると、業務上の必要性を上回る不利益があったとは認められない。

以上によって、会社が従業員に対して、職務内容、勤務場所、賃金、労働時間等の労働条件の変更を伴う再雇用契約の締結を申し入れたことは、業務の運営にとって必要不可欠であった。そして、その必要性は労働条件の変更によって従業員が受ける不利益を上回っていて、再雇用の申し入れをしなかった従業員を解雇することはやむを得ないと認められる。また、解雇を回避するための努力が十分に尽くされていたことが認められる。

スカンジナビア航空事件 解説

会社の経営状態が悪化したため、人員を削減して、削減の対象ではない従業員についても労働条件を引き下げなければ、経営状況の改善が見込めない場合に、一旦、退職してもらって、必要な従業員については新しい労働条件で再雇用するという方法を取って、トラブルになった裁判です。

これを「変更解約告知」と言います。この裁判では、「変更解約告知」が認められる条件を4つ挙げていますが、地裁レベルの判決ですので、一般的には浸透していません。

経営合理化のために、余剰人員を削減する場合は整理解雇の法理が適用されますし、労働条件を引き下げる場合(人員削減を伴わない場合)は就業規則の不利益変更の法理が適用されます。

この変更解約告知に関する裁判では、4つの要件(@労働条件変更の必要性、A会社の必要性と従業員の不利益の程度の比較、B解雇の相当性、C解雇回避努力)を示して、それぞれ検討して、全ての要件を満たしていたことを認めて、解雇は有効と判断しました。

ただし、解雇は最終手段と考えられていますので、変更解約告知や整理解雇の方が、就業規則の不利益変更よりハードルが高くなります。

人員を削減する必要性がない場合に解雇をすると、解雇は無効と判断されます。就業規則の不利益変更で対応できる場合は、解雇はするべきではありません。

なお、この裁判では、変更解約告知と同時に、別の従業員に対する整理解雇についても争われていて、整理解雇の方も会社の主張が認められました。そのような状況であれば、変更解約告知も認められやすいです。