茨城石炭商事事件(損害賠償責任)

茨城石炭商事事件 事件の経緯

石油等の輸送・販売を行う会社に、小型貨物自動車の運転手として雇用されました。

従業員が入社した半年後に、会社から臨時的に重油を満載したタンクローリーを運転するよう命じられました。そして、従業員がタンクローリーで国道を走行中に、前の車の運転手が渋滞に気付いて急停止したため、タンクローリーが追突しました。

この事故により、会社は追突された車の運転手に約40万円の損害賠償金を支払いました。これに対して、会社が従業員に、その全額を賠償することを求めて提訴しました。

茨城石炭商事事件 判決の概要

従業員が仕事をしているときに加害行為をして、会社が直接的に損害を受けたり、会社が損害賠償責任を負って間接的に損害を受けたりすることがある。

その場合、損害の公平な分担という見地から、信義則上相当と認められる範囲内で、会社は従業員に、損害の賠償又は求償を請求できる。

具体的には、事業の性格、規模、施設の状況、従業員の業務内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての会社の配慮の程度、その他諸般の事情を考慮して判断する。

  1. 会社は、タンクローリーや小型貨物自動車等の車両を約20台保有していたが、経費節減のため、対人賠償責任保険にのみ加人し、対物賠償責任保険と車両保険には加入していなかった。
  2. 従業員は、通常は小型貨物自動車の運転業務に従事しており、臨時的にタンクローリーの運転を命じられた。
  3. 従業員が重油を満載したタンクローリーを運転していたところ、先行車が渋滞に気付いて急停止した。タンクローリーが車間距離を十分に保持していなかった上に、前方の注意を怠っていたため、先行車に追突した。
  4. 事故当時、従業員の給与は月額約45,000円で、勤務成績は普通以上であった。

このような事実関係においては、会社が直接受けた損害、及び、被害者に損害賠償金を支払ったことによる損害の内、従業員に賠償及び求償を請求できる範囲は、信義則上、損害額の4分の1を限度とする。

茨城石炭商事事件 解説

従業員が前方不注意により自動車の追突事故を起こして、会社に損害を発生させた場合に、従業員にどこまで損害賠償を請求できるのか争われた裁判です。

車両については、対人賠償責任保険、対物賠償責任保険、車両保険がありますが、それぞれ加入するかどうかは会社の判断によります。従業員の意思で加入することはできません。

会社が対物賠償責任保険や車両保険に加入していれば損害額を抑えられたこと、従業員の担当業務、給与、勤務成績、勤務態度、不注意の内容・程度などを考慮して、会社が従業員に請求できるのは、この裁判では、損害額の4分の1が限度であると判断しました。

従業員に過失がある場合は、会社が受けた損害の一部を従業員に請求できることが示されたのですが、負担割合については、様々な事情が考慮されますので、合意形成を図ることは困難です。最終的には裁判所の判断によります。

労働契約法の研究会では、従業員にも損害賠償責任が生じることがあるという内容が検討されましたが、様々なケースが想定されること、負担割合が明確ではないこと等から、労働契約法に取り入れることは見送られました。