神戸弘陵学園事件(トライアル雇用・試行雇用)
神戸弘陵学園事件 事件の経緯
私立の高校(学園)に、社会科の教員(常勤講師)として採用されました。
採用面接の際に、学園の理事長が口頭で次のような説明をして、本人も受諾しました。
- 採用後の身分は常勤講師とすること
- 契約期間は4月1日から翌年3月末日までの1年間とすること
- その間の勤務状態を見て再雇用するかどうか判定すること
採用後に、次の内容が記載された契約書が学園から交付されたので、教員はこれに署名、捺印して学園に提出しました。
- 1年間の期限付の常勤講師として学園に採用されること
- 1年間の期限が満了したときは、満了日に当然に退職の効果が生じること
そして、翌年の3月になって、学園は教員に、3月末日で雇用契約を終了することを通知して、3月末日で雇用契約を終了しました。
これに対して、教員が雇用契約の終了は無効であると主張して、地位の確認を求めて、学園を提訴しました。
神戸弘陵学園事件 判決の概要
教員経験のない者を新規に採用する場合は、その適性を吟味する必要があることから、学園は期間を定めた雇用契約として、また、学校教育は行事等も含めて1年単位で行われることから、教員にひと通りの経験をしてもらった上で、その適性を判断するために、契約期間を1年間としたことが認められる。
使用者が採用するに当たって、労働者の適性を判断するために、雇用契約の期間を定めたときは、契約期間の満了によって当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立している等の特段の事情がない限り、契約期間は存続期間ではなく、試用期間であると考えられる。
試用期間の法的性質については、試用期間中の労働者に対する処遇の実情や試用期間満了時の本採用手続の実態等に照らして判断することになる。
つまり、試用期間中の労働者が試用期間中でない労働者と同じ職場で同じ職務に従事し、使用者の取扱いも特に変わらず、また、試用期間が満了した際に再雇用(本採用)に関する契約書を作成していない場合は、他に特段の事情がない限り、解約権が留保された雇用契約であると考えられる。
そして、解約権留保付の雇用契約を解約するときに、解約権留保の趣旨や目的に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、解約(解雇)は無効になる。
この場合、通常の雇用契約(本採用後)の解雇より広い範囲で認められるが、本採用の拒否(解約権の行使)が許される場合でなければ、試用期間の満了によって雇用契約を終了することはできない。
そこで、本件において、1年間の契約期間の満了によって雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が教員と学園の間に成立している等の特段の事情があったかどうか判断する。
採用面接の際に、学園の理事長から教員に対して、採用後の身分は常勤講師とし、契約期間は一応4月1日から1年間とすること、及び、1年間の勤務状態を見て再雇用するかどうか判定すること、などの説明をしていた。
学園の理事長は1年間という契約期間を「一応」と述べていて、「再雇用」も厳格な意味で雇用契約を新たに締結しなければ契約期間の満了によって終了するつもりで述べたものとは断定しがたい。
1年間の契約期間の満了によって雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が教員と学園の間に成立していたとすることには相当の疑問が残る。
ところで、教員が署名、捺印した契約書には、教員が1年間の期限付の常勤講師として採用されること、及び、1年間の期限が満了したときは満了日に当然に退職の効果が生じること等の記載があることから、1年間の契約期間の満了によって雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が教員と学園の間に成立していたことが窺える。
しかし、学園から教員に契約書が交付されたのは、雇用契約が成立した後であった。また、契約書には、教員は勤務規定を遵守して誠実に勤務する旨の記載があるが、教員が署名、捺印した当時は、勤務規定は作成されていなかった。
以上によれば、教員が提出した契約書は、雇用契約の趣旨や内容を適切に表現していないのではないかという疑問の余地がある。
雇用契約を締結する際に、1年間の契約期間の満了によって雇用契約が当然に終了する旨の明確な合意が教員と学園の間に成立している等の特段の事情が認められるというには疑問が残る。
前記疑問を解消し、
- 雇用契約を1年間の存続期間であるとする特段の事情が認められるかどうか
- 特段の事情が認められないとして、雇用契約を試用期間であり、その法的性質を解約権留保付の雇用契約とすることが相当かどうか
- それが相当であるとして、本件が留保された解約権の行使が許される場合に当たるかどうか
について、更に審理を尽くさせる必要があるから、本件を原審に差し戻す。
神戸弘陵学園事件 解説
私立の高校が1年間の期間を定めて教員を採用したのですが、契約期間満了で雇い止めすることを前提にしていたのか、その1年間を試用期間として設定していたのか、争われた裁判です。
契約期間満了で雇い止めすることを前提にしていたとすると、契約期間の満了によって雇い止め(退職)が成立します。
試用期間として設定していたとすると、1年間の期間が満了したときに、客観的に合理的な理由がなければ、雇い止め(解雇)は認められないことになります。
そして、この裁判では、「契約期間の満了によって雇用契約が当然に終了する」という明確な合意が当事者間に成立している場合を除いて、試用期間(期間の定めのない契約)と考えられることが示されました。
反対に言うと、「契約期間の満了によって雇用契約が当然に終了する」という明確な合意をしていれば、契約期間の満了によって、雇い止めをしても問題にはならないということです。
この内容を雇用契約書に記載することが考えられますが、それを疑わせるような言動をしていると、雇い止めは認められません。
例えば、長期雇用を期待させるような言動をしていたり、契約期間満了後に継続して雇用する場合に改めて雇用契約書を締結し直すといった再雇用(本採用)の手続きをしていなかったり、雇用契約書の内容や手続きに不備があったりすると難しくなります。
特に、長期雇用であると期待させるとトラブルの原因になりますので、採用面接の際に担当者が有期雇用であると念押しすることは当然として、採用後のその上司等にも長期雇用を期待させるような発言をしないよう注意しておく必要があります。
なお、従業員の適性の有無を確認するために期間を定めて雇用することは、「トライアル雇用」(試行雇用)と呼んで、公的な助成金の支給対象にもなっていることですので、違法や悪質と言われるようなことではありません。
採用の機会が増えたり、解雇のリスクを軽減できたりしますので、労使双方にとってメリットがあります。ただし、この裁判のように、長期雇用を期待させるような言動をしているとトラブルになりますので、トライアル雇用(試行雇用)をするときは慎重に進めないといけません。