電電公社近畿電気通信局事件(採用内定の取消し)

電電公社近畿電気通信局事件 事件の経緯

採用試験を受けて、会社から採用通知を受け取りました。入社日までの間に、採用内定者は無届けのデモに参加して逮捕されて、起訴猶予処分を受けました。

その事実を知った会社は、職場の秩序が混乱して、業務の遂行が阻害される恐れがあると考えて、採用内定者に採用を取り消すことを通知しました。

これに対して採用内定者は、採用内定の取消しは無効であると主張して、従業員としての地位の確認と賃金の支払を求めて会社を提訴しました。

電電公社近畿電気通信局事件 判決の概要

会社から採用内定者に交付した採用通知には、採用日、配置先、採用職種、身分が具体的に明示されていて、労働契約を締結するために特段の意思表示をすることは予定されていなかった。

会社の求人募集に応募した行為は労働契約の申込みであり、会社の採用通知はその申込みに対する承諾である。

これによって会社と従業員の間に、いわゆる採用内定として、労働契約の効力が発生する始期を採用通知に明示した日とする労働契約が成立したと考えられる。

そして、採用通知には、健康診断で異常があった場合又は誓約書等を所定の期日までに提出しなかった場合は、採用を取り消すことがあると記載しているが、会社による解約権の留保はこの場合に限定するものではない。

つまり、会社が採用の内定を通知した当時に知らなかった事実で、これを理由として採用の内定を取り消すことが、解約権を留保している趣旨や目的に照らして、客観的に合理的と認められて、社会通念上相当と認められる場合も含まれる。

本件の採用内定の取消しの通知は、解約の申し入れ(解約権の行使)と考えられる。

従業員が現行犯で逮捕されて、起訴猶予処分を受ける程度の違法行為をしたことを理由として、会社は採用内定を取り消した。

会社において、そのような違法行為を積極的に敢行した従業員を雇用することは相当でなく、会社が従業員としての適格性を欠くと判断して、採用内定を取り消したことは、解約権留保の趣旨や目的に照らして社会通念上相当と認められるから、解約権の行使は有効である。

電電公社近畿電気通信局事件 解説

一旦、採用の内定を通知した者に対して、会社が入社日までの間に採用の内定を取り消して、それが有効か無効か争われた裁判例です。

労働契約の関係にある者については、解雇をして、労働契約を解約することになります。そして、解雇が有効か無効か争われた場合は、客観的に合理的な理由があるかどうか、社会通念上相当であるかどうか、がポイントになります。

労働契約とは、従業員が業務に従事して、その対価として会社が賃金を支払う関係のことを言います。採用の内定を通知した段階では、業務に従事していませんし、会社は賃金を支払っていませんので、労働契約の関係にはありません。

採用の内定が、法律的にどのように位置付けられるのかが問題になります。仮に、労働契約が成立していないのであれば、解約が問題になることはなく、内定の約束は自由に取り消せることになります。

この裁判では、求人の募集に対する応募は労働契約の申込みであって、会社の採用内定の通知はその申込みに対する承諾であって、会社と採用内定者の間には労働契約が成立することが示されました。ただし、労働契約の効力が発生する始期を定めた契約で、それまでは解約権を留保したものとされています。

そして、採用の内定を通知した当時は知らなかった事実が発覚して、その事実を理由にして採用内定を取り消すことが、客観的に合理的で社会通念上相当と認められる場合は、解約権を行使できます。

要するに、採用の内定を通知した当時に知っていたら採用しなかったと客観的に認められれば、採用の内定を取り消すことができます。

この裁判では、逮捕されて起訴猶予処分を受けた事実が発覚して、採用内定を取り消したことは、社会通念上相当であると認めて、解約権の行使(採用内定の取り消し)は有効であると判断しました。

なお、就業規則は、会社が雇用している従業員に適用するもので、採用内定者には適用されません。就業規則は労働時間や休日などの労働条件を定めたものですので、実際に勤務している者が対象になります。

したがって、就業規則に解雇事由を記載していても採用内定者には適用できませんので、新卒採用等で入社日まで期間がある場合は、採用内定通知書に、採用内定を取り消す事由を具体的に列挙しておくことが重要です。