フォセコ・ジャパン・リミティッド事件(競業避止義務)

フォセコ・ジャパン・リミティッド事件 事件の経緯

従業員は、金属の鋳物を製造販売している会社において、営業秘密に関与する研究部門で勤務していました。

従業員は勤務に当たって、「雇用契約存続中、終了後を問わず、業務上知り得た秘密を他に漏洩しないこと」、「雇用契約終了後満2年間は会社と競業関係にある一切の企業に直接にも間接にも関係しないこと」という競業避止義務の契約をして、機密保持手当が支給されていました。

従業員は約10年間勤務した後、会社を退職して約2ヶ月後に、同業のA社を設立して取締役に就任しました。新設したA社では会社と競合する製品を製造して、前職の得意先に販売しました。

会社は、業務上知り得た秘密を漏洩したと主張して、競業行為の差止めを求めて、退職者を提訴しました。

フォセコ・ジャパン・リミティッド事件 判決の概要

従業員は在籍中の経験により、多くの知識や技能を習得する。同一業種の従業員が他社でも習得できるような一般的な知識や技能を習得したときは、それは従業員の財産として退職後に活用しても差し支えない。これを禁止することは、従業員の職業選択の自由を不当に制限するもので、認められない。

しかし、その企業だけが有する特殊な知識は、その企業の財産となるもので、一般的な知識や技能とは性質が異なる。営業秘密として保護されるべきで、一定の範囲で競業避止義務の契約を締結することは合理性がある。

技術的秘密の開発・改良のために、企業は大きな努力を払っているのであって、技術的秘密はその企業の重要な財産である。

したがって、このような技術的秘密を保護するために、営業秘密を知り得る立場にある者に秘密保持義務を負わせ、秘密保持義務を担保するために、退職後に競業避止義務を負わせることは適法と考えられる。

退職者は在籍中、会社の研究部門において、製品の品質管理や技術指導等の業務に従事し、会社の技術的秘密を知る地位にあった。

会社を退職して2ヶ月後にA社を設立し、取締役となり、前職と同様の製品の製造販売を行っており、退職者の有する知識がA社において重要な役割を果たしたと推認できる。また、退職者は、競業企業のA社に対し、営業秘密を漏洩し、漏洩すべき立場にあったと言える。

したがって、会社は、競業避止義務の契約に基づいて、退職者の競業行為を差し止める権利があると認められる。

退職者は、競業避止義務の契約が退職者にとって著しく不利益なもので、退職者の生存を脅かすものとして、公序良俗に反して無効であると主張する。

競業の制限が合理的な範囲を超え、退職者の職業選択の自由を不当に拘束し、生存を脅かす場合は、その制限は公序良俗に反し無効となる。

しかし、この合理的な範囲を確定するに当たっては、1.制限する期間、2.制限する場所(地域)の範囲、3.制限する職種の範囲、4.代償の有無等について、会社の利益(営業秘密の保護)、退職者の不利益(再就職の不自由)、社会的利害(一般消費者の利害)の3つの視点に立って慎重に検討する必要がある。

  1. 制限する期間は2年間で、比較的短期間である
  2. 制限する場所(地域)は無制限であるが、営業秘密が技術的秘密であるためやむを得ない
  3. 制限する職種は金属鋳造用副資材の製造販売で、対象とする範囲は比較的狭い
  4. 退職後の制限に対する代償は支給されていないが、在職中は機密保持手当が支給されていた

これらの事情を総合すると、競業の制限は合理的な範囲を超えているとは言えない。したがって、競業避止義務の契約は有効と認められる。

そして、会社の得意先でA社が製品の納入を取り付けたため納入停止になったこと、また別の得意先でA社の製品を購入するという理由で納入停止になったことなど、A社が会社の得意先を侵食している事実が認められる。

このまま放置すればA社は会社の得意先を奪って、回復しがたい損害を与えることは容易に想像できる。よって、競業行為の差止めは必要性があると認められる。

フォセコ・ジャパン・リミティッド事件 解説

競業避止義務の契約が有効か無効か争われた裁判例です。会社としては、利益を重視して競業避止義務を課したいと考えますが、法律的には、退職者の不利益(職業選択の自由)及び社会的利害(一般消費者の利害)も同じように重視されます。

まずは、競業避止義務を課すためには、その企業特有の財産と言えるような特殊な知識や技能(営業秘密)と言えるものがあって、それを知り得る立場にある者であることが前提条件になります。

他社でも習得できるような一般的な知識や技能は、営業秘密とは言えません。そのため、特定の部門で従事する者や一定の役職以上の者に限られます。一般従業員の全員に競業避止義務を課すことは、通常は不可能です。会社は、技術的な秘密など、営業秘密を具体的に特定することが重要です。

競業避止義務の契約を締結していても、それだけでは不十分で、次の事項を総合的に考慮して、競業避止義務の契約が有効か無効か、判断することが示されました。

  1. 制限する期間
  2. 制限する場所(地域)の範囲
  3. 制限する職種の範囲
  4. 代償の有無

会社としては、期間、地域、職種について、制限する範囲を拡げたいと考えますが、範囲を拡げると反対に無効と判断されやすくなりますので、それぞれ必要最小限の範囲で設定することが重要です。

就業規則を作成して、従業員に競業避止義務があることを周知して、個別に誓約書や契約書を作成して、期間・地域・職種の範囲を具体的に明示します。

代償については、在籍中に手当として支払う場合は賃金の10%以上、退職後に支払う場合は半年分の賃金が目安になると思います。

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執筆者:社会保険労務士 木下貴雄【 登録番号 第27020179号 】
就業規則を専門とする社会保険労務士です。中小零細企業の就業規則に関する悩みは全て解決いたします。日々の業務やホームページでは、分かりやすく伝えることを心掛けています。