パナソニックプラズマディスプレイ事件(労働契約の成立)

パナソニックプラズマディスプレイ事件 事件の経緯

請負企業に雇用された従業員が、業務委託契約に基づいて、A社の工場で勤務していました。工場での作業について、従業員はA社の者から直接指示を受けて、請負企業の者から指示は受けていませんでした。

従業員は、偽装請負である(実態は労働者派遣で、業務請負ではない)として、A社に直接雇用するよう申し入れましたが、A社は拒否しました。従業員は、A社及び請負企業が労働者派遣法に違反していると労働局に申告しました。

労働局は労働者派遣(偽装請負)に該当すると判断して、A社に対して、業務委託契約を解消して派遣契約に切り替えるよう是正指導を行いました。

A社が改善に取り組んでいたところ、再度、従業員から直接雇用するよう要望があったため、A社は契約期間を6ヶ月として更新しないことを条件に直接雇用しました。従業員は契約期間について異議を示したまま勤務をして、その後、A社は契約期間の満了によって従業員を雇止めしました。

これに対して、従業員が解雇(雇止め)の無効を主張して、従業員としての地位の確認と賃金の支払いを求めてA社を提訴しました。

パナソニックプラズマディスプレイ事件 判決の概要

A社が請負企業の従業員の採用に関与していた事実はないし、請負企業から従業員に支給する賃金の額をA社が決定していたという事情も認められない。逆に請負企業は、配置など一定の範囲内で従業員の労働条件を決定していた。

その他の事情を考慮しても、業務委託契約に基づいてA社の工場で勤務をしていた期間については、A社と従業員の間に労働契約が成立していたとは認められない。

したがって、A社と従業員の労働契約は、直接雇用に切り替えた日以降に成立した。そして、その雇用契約書には、6ヶ月で契約期間が満了することが記載されていた。

ところで、次のいずれかに該当する場合、雇止が有効と認められるためには、客観的に合理的な理由があり、社会通念上相当であることが求められる。

A社と従業員の労働契約は1回も更新されていないし、労働契約は更新しないというA社の意図は労働契約を締結する前から従業員に明らかにしていた。

つまり、実質的に期間の定めのない労働契約と同視できる余地はないし、契約期間満了後も雇用が継続されると従業員が期待する事情も認められない。

したがって、A社による雇止めは有効である。

パナソニックプラズマディスプレイ事件 解説

偽装請負が明らかになった場合に、発注企業と請負社員の間で、自動的に労働契約が成立するのかどうか争われた裁判例です。

通常、従業員を雇用した会社が、その従業員に業務の指示命令を行います。会社と従業員の2者の場合は単純ですが、派遣や請負になると3者の関係で少し複雑になります。

派遣の場合は、派遣元企業が派遣社員を雇用して、派遣先企業が派遣社員に業務の指示命令を行います。雇用と指示命令が分離します。

一方、請負の場合は、請負企業が請負社員を雇用して、業務委託契約に基づいて、請負企業が請負社員に指示命令を行います。発注企業が請負社員に直接指示命令を行うことは許されません。

このトラブルが生じた当時は、製造業への労働者派遣が禁止されていました。そのため、形式上は請負契約として、実質的には派遣契約と同様に発注企業が請負社員に直接指示命令を行うケースがあり、“偽装請負”と呼ばれて社会問題になっていました。

この会社も従業員の申告によって偽装請負が明らかになって、労働局から是正指導を受けました。

改善策の一環として、発注企業が請負社員として勤務していた者を、期間を定めて直接雇用しました。その後、契約期間の満了によって雇止めをして、それが有効か無効かトラブルになりました。

従業員は、発注企業から指示命令を受けて作業していたので、偽装請負の段階から労働契約が成立していたと主張しました。もし、これが認められると、無期労働契約になりますので、会社が解雇(雇止め)をする場合は、正当な解雇理由が必要になります。

しかし、このケースにおいては、次の理由を挙げて、偽装請負(請負契約)の段階では、労働契約は成立していないと判断しました。

  1. 発注企業は、請負企業の従業員の採用に関与していなかった
  2. 発注企業が、請負企業から請負社員に支給する賃金の額を決定していた事情はない
  3. 請負企業は、配置など一定の範囲内で従業員の労働条件を決定していた

偽装請負であったとしても、直ちに発注企業と請負社員の間で労働契約が成立することはありません。仮に、業務の指示命令をしていただけで、労働契約が成立するのであれば、労働者派遣を行っている場合は、派遣先企業と派遣社員の間で労働契約が成立することになります。

そして、その後に締結した労働契約は有効として、発注企業は最初から有期労働契約を更新しないことを明らかにしていましたので、契約期間満了による雇止めは有効と判断されました。

なお、この事件の後、労働者派遣法が改正されて、偽装請負など労働者派遣法に違反して派遣社員(請負社員)を受け入れている会社は、原則として、違法に受け入れた時点で、派遣社員(請負社員)に対して直接雇用の申込みをしたものとみなされます。

この場合、派遣社員(請負社員)が直接雇用されることを希望すれば、同一の労働条件で受け入れ企業との労働契約が成立します。

労働契約法(第6条)でも、会社と従業員が合意をすることによって、労働契約が成立することが規定されています。本人が希望すれば、自動的に双方から意思表示があったとみなされます。

現在、この裁判例と同じケースがあったとすると、法律(労働者派遣法)に基づいて労働契約が成立します。当時は契約期間満了による雇止めが認められましたが、現在は認められません。

また、現在は製造業への労働者派遣が解禁されていますので、請負契約ではなく派遣契約として、適正に受け入れていれば問題(偽装請負)になることはありません。

法律が整備されましたので、今となっては、この裁判例と同様のトラブルが生じることは考えにくいです。