池貝鉄工事件(整理解雇)

池貝鉄工事件 事件の経緯

会社が経営不振に陥って、経営危機を打開するために、人員整理(整理解雇)を計画しました。

会社と労働組合が締結した労働協約に、解雇などの経営に関する事項については、労働組合と協議・決定すると規定していたため、会社は労働組合と協議をしたのですが、整理解雇について、合意には至りませんでした。

その後、労働組合は、整理解雇の方針を撤回しない限り、協議には応じないとして、協議を拒否しました。会社は協議を断念して、計画どおり、従業員を整理解雇しました。

これに対して従業員が、労働協約に違反して行った解雇は無効であると主張して、労働契約上の地位が存在することの確認等を求めて、会社を提訴しました。

池貝鉄工事件 判決の概要

会社の労働協約には、次のように規定されていた。

  1. 組合は、経営権が会社にあることを確認する。ただし、会社は、経営の方針、人事の基準、組織及び職制の変更、資産の処分等経営の基本に関する事項については、再建協議会その他の方法により、組合又は連合会と協議決定する。
  2. 前項の人事とは、従業員の採用、解雇、異動、休職、任免及びこれ等に関連する事項をいう。

この条項は一見すると、会社の経営権に重大な制限を加えるもので、経営方針や人事基準など経営の基本に関する事項については、常に労働組合と協議をして、決定を要することとして、会社が単独で決定することを許さないという趣旨のように理解できる。

しかし、会社にとって、経営の基本に関する事項は最大の関心事であって、会社がこれらの事項の決定権を無条件に放棄することは通常はあり得ないし、経営権が会社にあることを、労働組合が確認していることから、それが窺える。

従業員にとっても、経営の危機を打開するために、やむを得ない場合は、会社の人員整理の方針に従うことが、結局は多数の従業員の利益になる場合がある。

つまり、この条項は、いかなる場合においても、会社が一方的に経営上の措置を講じること(本件で問題となっている人員整理の決定や実施など)を許さないという趣旨ではなく、会社の独断専行を避けるために、会社の方針等を労働組合に示して、協議してその意見を反映すると共に、できる限り、労使双方が理解・納得した上で実施することを趣旨としたものと考えられる。

したがって、ある経営上の措置が会社にとってやむを得ないもので、かつ、これについて労働組合の了解を得るために、会社としてできる限りの努力をしたにもかかわらず、労働組合の了解を得られなかった場合は、会社が一方的にその経営上の措置を実施することができる。

本件の事実関係を見ると、会社が極度の経営不振に陥って、企業倒壊の寸前まで追い込まれたため、企業再建の方策として、人員整理を含む経営方針を計画して、労働協約の条項に基づいて、労働組合と協議を重ねた。

当時の情勢下においては、人員整理を内容とする企業再建の方策が会社としてやむを得ない措置で、かつ、早急にこれを実施する必要に迫られていたにもかかわらず、労働組合は、あくまでも人員整理の方針に反対して、この方針を改めなければ協議に応じないと固執したため、会社としてはやむを得ず、それ以上の協議を断念して、人員整理を実施した。

このような事情の下においては、会社が一方的に人員整理の基準を定めて、これに基づいて人員整理を実施したとしても、労働協約に違反したことにはならない。

池貝鉄工事件 解説

会社と労働組合が締結した労働協約に、解雇などの経営に関する事項については、労使間で協議・決定をすると規定されていました。労働組合が協議を拒否した状況で行った整理解雇が、有効か無効か争われた裁判例です。

裁判所は、労働協約に労使間で協議・決定をすると記載されていたとしても、それは必ずしも労使間の決定(合意)を条件とする趣旨ではなく、会社から労働組合に経営に関する方針を示して、労働組合の意見を反映して、できる限り、労働組合の理解と納得を得て実行することを趣旨とするものであると認めました。

したがって、人員整理(整理解雇)がやむを得ない状況で、会社としてできる限り、労働組合と協議しようと努力したけれども、労働組合が協議を拒否したときは、会社が一方的に決定できることを示しました。結果的に、この裁判では整理解雇は有効と認められました。

労働組合としては、人員整理(整理解雇)が実際にやむを得ない状況か確認をして、それが避けられなければ、解雇対象者の選定基準等の協議に参加するべきであったということです。

そして、整理解雇は、個々の従業員に直接的な原因や責任がないことから、会社は通常の解雇より慎重に対応することが求められます。

整理解雇の4要件として、@人員整理が必要であったか、A解雇を回避する努力をしたか、B解雇対象者の選定基準が合理的か、C解雇までの手続きが妥当か、を総合的に考慮して、解雇が有効か無効か判断されることになっています。

この会社のように、労働協約で協議することを定めていなくても、会社から従業員に対して、経営状況や整理解雇の必要性、計画等について、繰り返し丁寧に説明をする必要があります。また、誠実に対応する必要がありますので、従業員から求められた資料を提供したり、協議によって、整理解雇の規模を修正したり、解雇対象者の選定基準を見直したりすることも考えられます。

会社が説明を怠ったり、協議を拒否したり、誠実に対応しなかったりすると、「C解雇までの手続き」が妥当ではなかったとして、解雇が否定される可能性が高くなります。

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