東洋酸素事件(整理解雇)

東洋酸素事件 事件の経緯

会社が不採算部門を閉鎖することを決定し、これに先立って、その部門に在籍していた全ての従業員に対して、解雇(整理解雇)を通告しました。

会社の就業規則には、解雇の事由として、「やむを得ない事業の都合によるとき」と記載されていました。

これに対して解雇された従業員が、就業規則の「やむを得ない事業の都合によるとき」には該当しないと主張して、従業員の地位の保全等を求めて、会社を提訴しました。

東洋酸素事件 判決の概要

事業部門の閉鎖に伴って、会社の行った整理解雇が、就業規則に記載している「やむを得ない事業の都合によるとき」に該当するかどうか判断する。

会社が特定の事業部門の閉鎖を決定することは、運営方針の決定であって、本来、会社の専権に属するもので自由に行える。しかし、これは、事業部門の閉鎖の決定に伴って、会社がその部門の従業員を自由に解雇できることを意味するものではない。

我が国における労働関係は終身雇用が原則で、従業員は、雇用関係が永続的で安定したものと捉えて長期的な生活設計をすることが多い。そのため、解雇は、従業員から生活の手段を奪ったり、不利な労働条件で他社に転職したり、その者の生活設計を狂わせることがある。

したがって、従業員を保護するために、労働基準法第19条に規定されているように、法律の明文によって、一定の事由に当てはまる場合は解雇が制限(禁止)されている。

労働基準法上の解雇制限の事由に当てはまらなくても、解雇が従業員の生活に深刻な影響を及ぼすことを考慮すると、会社の運営上の必要性を理由とする解雇も、一定の制約を受けるべきである。

会社の就業規則でも無制約に解雇できるのではなく、「やむを得ない事業の都合によるとき」に限定しているのは、このような考えを明文化したものと考えられる。

つまり、解雇が就業規則の「やむを得ない事業の都合による」ものに該当するかどうかは、会社側と従業員側の具体的な実情を総合して、解雇もやむを得ないと言える程度の(客観的で合理的な)理由があるかどうかに帰する。

この見地に立って考察すると、特定の事業部門の閉鎖に伴って、その部門に在籍している従業員を解雇するときに、その解雇が「やむを得ない事業の都合による」と言えるためには、次の3つの要件を満たしている必要がある。

  1. その事業部門を閉鎖することが、会社の合理的な運営上やむを得ないこと
  2. その事業部門に勤務する従業員を他の事業部門に配置転換する余地がない場合、あるいは配置転換をしても全社的に見て余剰人員が生じる場合であって、解雇がその事業部門の閉鎖を理由に会社の恣意によって行われるものでないこと
  3. 解雇する対象者の選定が、客観的で合理的な基準に基づくこと

以上の要件を超えて、その事業部門の操業を継続したり、その事業部門を閉鎖して会社内に生じた余剰人員を整理しないで放置したりすると、会社の経営が破綻し、存続が不可能になることが明らかでない限り、従業員を解雇できないとする考え方には同調できない。

確かに、会社は一旦従業員を雇用すれば、客観的で合理的な理由がない限り解雇できないことは前述したとおりである。

しかし、資本主義経済社会においては、会社は一般に、採算を無視して事業活動や雇用を継続する義務を負わないし、事業規模を縮小して労働力が不要になった場合に、不要になった労働力を維持することは強制されない。

雇用の安定による従業員の生活保障、失業者の発生防止等の観点から見ても、会社に対して、前記の要件を超えて、労働力の需供関係を無視した特別な法的負担を課す根拠は、現在の法律には認められない。

なお、労働協約や就業規則に、解雇する場合の人事同意約款や協議約款が存在するにもかかわらず、労働組合の同意を得なかったり、協議を尽くさなかったり、あるいは解雇の手続が信義則に反して、解雇権の濫用と認められたりするときは、いずれも解雇の効力が否定される。

これらは、解雇の効力の発生を妨げる事由であって、その事由の有無は、就業規則の解雇事由の存在が肯定された上で検討されるべきもので、解雇事由の有無の判断に当たって考慮すべき要素とはならない。

以上のとおり、本件解雇は就業規則の「やむを得ない事業の都合による」ものであって、就業規則に規定する解雇事由が存在すると認められる。また、他に認定を妨げるような特段の事情は認められない。

東洋酸素事件 解説

従業員が横領などの違反行為をしたことを理由にして、会社が解雇したときは、その違反行為が解雇に相当するかどうか、つまり、客観的で合理的な理由があるかどうか検討して、解雇の正当性の有無が判断されます。

整理解雇は、会社の経営が悪化して、事業を縮小(人員を削減)せざるを得ない場合に行うものですが、その責任の大部分は会社にあります。

従業員に責任がない整理解雇であっても、客観的で合理的な理由があるかどうか検討することが示されました。ただし、具体的に検討する内容が異なります。

この裁判では、次の4つの要件を満たしている必要があることが示されました。

  1. 人員を削減する経営上の必要性
  2. 解雇を回避するための努力
  3. 解雇される者の客観的で合理的な選定基準
  4. 会社の説明と労使間の協議

この裁判(東洋酸素事件)では“整理解雇の4要件”として、全ての要件を満たしている必要があると判示しています。

人員を削減する経営上の必要性については、整理解雇をしなければ会社の存続が不可能になるという危機的な状況になるまで待たなくても構いません。他の要件とのバランスにもよりますが、経営上の合理的な必要性があれば認められます。

なお、この裁判(東洋酸素事件)は、高等裁判所によるものです。最高裁判所で、整理解雇の判定基準を示したものではありませんが、重要な裁判例とみなされています。