九州朝日放送事件(アナウンサーの配転命令)

九州朝日放送事件 事件の経緯

会社が行ったアナウンサーの募集に応募して、入社試験に合格して、アナウンス部に配属されました。

その後、従業員は約24年間にわたってアナウンス業務に従事していたところ、会社から情報センター(ラジオニュース班)への配置転換を命じられました。情報センターはアナウンス業務を所管していませんでしたが、従業員はアナウンス業務を担当していました。

その後、情報センター(ラジオニュース班)を解体することが決まり、それに伴って、会社から番組審議会事務局図書資料室への配置転換を命じられました。

従業員はアナウンサーの業務に従事できなくなったことから、配転命令は無効であると主張して、アナウンサーの業務に従事する労働契約上の地位があることの確認を求めて、会社を提訴しました。

また、そのような地位がないとしても、アナウンス業務に従事するよう会社に要求できることの確認を予備的に請求しました。

九州朝日放送事件 判決の概要

原審の判断は、正当として是認することができる。

福岡高裁(原審)

従業員にアナウンサーの業務に従事する労働契約上の地位があるというためには、長年アナウンサーの業務に就いていただけでは不十分で、労働契約において、職種を限定して、アナウンサーの業務以外の職種には就かないという趣旨の合意を要する。

採用時は音声テストが行われただけで、その時点においては、アナウンサーとしての特殊技能は求められていなかった。特殊技能はその後、実務を経験して次第に培われるものであって、それはアナウンサーの業務に限定されることではない。

また、就業規則には、「会社は、業務上の必要により、従業員に対し辞令をもって転勤または転職を命ずることがある」と規定されていて、この対象者からアナウンサーは除外されていない。

労働協約にも、配置転換を行うことが定められていて、その対象者からアナウンサーは除外されていない。そして、現に、一定年齢に達したアナウンサーに対して、他の職種への配置転換が頻繁に行われていた。

以上の事情を総合して考えると、アナウンサーの業務が特殊技能を要するからといって、労働契約において、職種を限定して、アナウンサーの業務以外の職種には就かないという趣旨の合意が成立していたと認めることはできない。

労働契約上、業務の運営上必要がある場合は、個別の同意がなくても、職種の変更を命令する権限が会社に留保されていたと考えられる。そうすると、本件の労働契約を締結した当時、従業員がアナウンサーの業務に従事する地位にあった(限定されていた)とは言えない。

従業員は長年にわたってアナウンス業務に従事していたが、そうであるからといって、当然に、アナウンサーの業務に従事する労働契約上の地位が与えられるわけではなく、労働契約が職種を限定する内容に変更されて初めて、アナウンサーの業務に従事する地位を取得することになる。

本件の労働契約を締結した後に、職種を限定するという合意が成立したことを示す証拠はないし、事実経過を考慮してもそのような合意が成立したとは考えられない。

一方で、従業員は、職種を限定するという合意がなかったとしても、アナウンス業務に従事できることを会社は約束したのであるから、アナウンス業務に就労することを内容とする、いわゆる就労請求権が存在することの確認を予備的に請求している。

しかし、労働契約とは、労働者が労務を提供する義務を負い、使用者がこれに対して賃金を支払う義務を負うことに尽きる。労働契約に特段の定めがある場合を除いて、就労請求権は認められない。

九州朝日放送事件 解説

アナウンサーとして入社した従業員に対して行った配転命令が、有効か無効か争われた裁判例です。

配転命令が無効と認められるためには、労働契約において、職種を限定して、他の職種に就かないという趣旨の合意を要することが示されました。

アナウンサーの業務は特殊技能が必要で、長年アナウンサーの業務に就いていたとしても、それだけでは職種を限定したことにはなりません。

実際に、この会社では、一定の年齢に達したアナウンサーに対して、頻繁に配置転換をしていたこともあって、会社が行った配転命令は有効と判断しました。

したがって、職種を限定する(他の職種には就かない)という明確な合意がない限り、業務の運営上、必要がある場合は、個別の同意がなくても、会社は配置転換を命令することができます。

採用時に職種を限定することを約束していなければ、配転命令が無効になる可能性は低いです。

また、従業員は予備的に、アナウンス業務の就労請求権を求めていましたが、裁判所はこれも否定しました。

労働契約とは、労働者が労務を提供する義務を負って、その対価として使用者が賃金を支払う義務を負うものです。労務の提供は労働者の義務であって、請求する権利はないということです。

なお、使用者(会社)の都合で労務を提供できなかった場合は、従業員は賃金の支払いを請求することができます。

【関連する裁判例】