古河電気工業事件

古河電気工業事件 事件の経緯

A社とB社から特定の部門を切り離して、それを引き継ぐための会社としてC社を新設しました。A社はその部門に在籍していた従業員に対して、A社との雇用関係は存続したまま、復帰もあり得ることを伝えて本人から同意を得た上で、C社に出向を命じました。

その後、出向先のC社で欠勤等を繰り返す従業員が現れ、業務に支障が生じていました。

出向元のA社が、その従業員にA社に復帰するよう命じたのですが、従業員は復帰を拒否したため、A社は就業規則に基づいて、その従業員を懲戒解雇しました。

これに対して従業員が、復帰には同意が必要であると主張して、懲戒解雇の無効と賃金の支払いを求めて、出向元のA社と出向先のC社を提訴しました。

古河電気工業事件 判決の概要

出向元企業と雇用関係を保持したまま、従業員に出向(在籍出向)を命じた後に、出向元に復帰を命じる場合は、指揮監督の主体が出向先から出向元に変更することになる。

しかし、従業員が出向元の指揮監督下で労務を提供することは、当初の雇用契約で合意していたことである。

出向元から復帰は想定していないと伝えて、従業員が同意した上で、出向を命じた場合は、将来にわたって、再び出向元の指揮監督下で労務を提供することはないという合意が成立した(雇用契約が変更された)と考えられる。

しかし、そのような特段の事由がない限り、従業員が出向元の指揮監督下で労務を提供するという当初の雇用契約は維持される。つまり、一時的に、出向先の指揮監督下で労務を提供していたに過ぎない。

したがって、出向元企業が出向先企業の同意を得た上で、出向を解消して従業員に復帰を命じる場合は、特段の事由がない限り、その従業員から同意を得る必要はない。

本件においては、A社からC社への出向は、復帰があり得ることを予定して行われたものであって、従業員が出向元の指揮監督下で労務を提供するという当初の雇用契約が変更されたと考えられる特段の事由は認められない。

出向元のA社は従業員に復帰を命じる際に、本人から同意を得る必要はない。

古河電気工業事件 解説

出向させた従業員を出向元の会社に復帰させる場合に、本人の同意が必要かどうか争われた裁判例です。

出向とは、出向元企業との雇用関係(雇用契約上の身分)を維持したまま、出向先企業の指揮監督下で労務を提供することを言います。

なお、出向については、労働契約法(第14条)で、次のように規定されています。

「使用者が労働者に出向を命ずることができる場合において、当該出向の命令が、その必要性、対象労働者の選定に係る事情その他の事情に照らして、その権利を濫用したものと認められる場合には、当該命令は、無効とする。」

就業規則に「出向を命じることがある」といった規定を設けている場合は、会社が一方的に従業員に対して出向を命じることができます。原則的には、本人の同意は必要とされていません。

ただし、嫌がらせが目的で業務上の必要性がなかったり、従業員に大きな不利益が及んだりするような場合は、権利を濫用するものとして、出向命令は無効になります。基本的な考え方は、企業内で一般的に行われている転勤と同じです。

そして、この裁判では、出向している従業員に復帰を命じる場合も、本人の同意は必要としないことが示されました。

出向を命じる場合は本人の同意は不要だけれども、反対に、出向先から復帰を命じる場合は本人の同意が必要になるとは考えにくいので、当然の結果と思われます。

出向を命じられた従業員は、身分は出向元の従業員まま、一時的に出向先の指揮監督下で労務を提供しているだけで、復帰命令によって本来の雇用契約に戻るものですので、改めて本人の同意を得る必要はないということです。

ただし、出向元から「将来、復帰はない」と伝えて、本人が同意していた場合は、それが契約内容になります。そのような特別な事情があった場合は、例外的に復帰を命じる際は本人の同意が必要になります。一定期間を定めて出向を命じていて、途中で復帰させる場合も、特別な事情に該当すると考えられます。

この裁判になったケースは、そのような特別な事情がありませんでしたので、復帰の際は本人の同意は不要として、復帰命令を拒否したことを理由にして行った懲戒解雇は有効であると判断しました。

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