陸上自衛隊第三三一会計隊事件(安全配慮義務)
陸上自衛隊第三三一会計隊事件 事件の経緯
陸上自衛隊の会計隊長が、別の会計隊から派遣されていた隊員を、自衛隊の車両で送り届けることになりました。
その際、1ヶ月前に公安委員会の運転免許を取得して、将来、操縦手の資格を取得させようと考えていた部下の隊員がいたため、その準備として指導・教育をする目的で、同乗を命じました。
派遣されていた隊員を送り届けた帰り道で、会計隊長の不注意によって車両の後輪がスリップして反対車線に進入してしまい、大型貨物自動車と衝突して、同乗していた部下の隊員が死亡しました。
これに対して、死亡した隊員の遺族が、国に安全配慮義務違反があったと主張して、損害賠償を求めて国を提訴しました。
陸上自衛隊第三三一会計隊事件 判決の概要
公務を遂行するために、国が設置する場所、施設、器具等の管理、又は、公務員が遂行する公務の管理に当たって、国は公務員の生命及び健康等を危険から保護するよう配慮する義務がある。
この義務は、公務の遂行に当たって、国が支配・管理する人的及び物的な環境から生じる危険の防止について、信義則に基づいて生じる。
したがって、自衛隊員を自衛隊の車両に公務として乗車させる場合は、国は自衛隊員に対する安全配慮義務として、車両から生じる危険を防止するために整備を万全に行い、車両の運転者として技能を有する者を選任し、かつ、車両を運転する上で特に必要な安全上の注意を与えて、車両の運行から生じる危険を防止する義務がある。
しかし、道路交通法に基づいて生じる通常の注意義務については、運転者が負うものであって、安全配慮義務の内容には含まれない。
また、安全配慮義務を履行する立場の者が車両を運転する場合に、運転者として注意義務を怠ったからといって、国の安全配慮義務違反があったとは認められない。
本件の事故は、会計隊長が車両の運転者として、道路交通法に基づいて生じる通常の注意義務を怠ったことにより発生したもので、国が安全配慮義務を怠った事実は他にないから、国の安全配慮義務違反は認められない。
陸上自衛隊第三三一会計隊事件 解説
自衛隊の隊長が運転する車両が交通事故を起こして、同乗していた隊員が死亡しました。国の安全配慮義務の範囲が、そこまで及ぶのかどうか争われた裁判例です。
公務を遂行するために、施設や器具等を設置する権限は国にありますので、そこから生じる危険については、国の責任で防止しないといけません。「安全配慮義務」と呼ばれていて、国は公務員の生命や健康等を保護するよう配慮する義務があります。
一方、道路交通法によって、運転者には、注意して車両を運転する義務が課されています。
この事件では、運転者が通常の注意義務を怠ったことが原因で生じた事故として、国の安全配慮義務違反には当たらないと判断しました。本人の裁量や責任が大きくて、国がいくら努力をしても防止することが困難なケースですので、国には責任が及ばないということです。
この事件は、国と公務員(自衛隊員)の関係で生じたケースですが、安全配慮義務は一般企業にも課されていますので、一般企業と従業員の関係でも同じことが言えます。
例えば、交通事故が車両の整備不良が原因で生じたとすると、車両を整備する責任は会社にあって、それを怠っていたと認められると、安全配慮義務違反と判断されます。結果として、会社は損害賠償の支払いを命じられることになります。
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