三菱重工業 神戸造船所(難聴)事件

三菱重工業 神戸造船所(難聴)事件 事件の経緯

下請企業の従業員が、発注企業の造船所でハンマー打ちの作業に従事していたのですが、騒音によって難聴に罹患しました。

騒音による難聴の罹患は、発注企業が安全配慮義務を怠ったことが原因であると主張して、下請企業の従業員が損害賠償を求めて発注企業を提訴しました。

三菱重工業 神戸造船所(難聴)事件 判決の概要

下請企業の従業員が発注企業の造船所で労務を提供していたが、いわゆる社外工として、発注企業が管理する設備や工具を用いて、事実上発注企業の指揮監督を受けて従事し、その作業内容も発注企業の従業員(本工)とほとんど同じであった。

このような事実関係の下においては、発注企業と下請企業の従業員は、事実上の雇用関係があるものとして、信義則上、発注企業はその従業員に対して安全配慮義務を負う。

三菱重工業 神戸造船所(難聴)事件 解説

造船所で勤務していた従業員が騒音性の難聴になって、雇用されていた下請企業とその発注企業に安全配慮義務違反があったとして、両社に対して損害賠償を請求した裁判例です。雇用関係がない発注企業に安全配慮義務があるかどうかが争点になりました。

雇用契約を締結すると、通常は、会社が指定した場所で、会社が提供する設備や器具等を用いて、従業員は業務に従事します。

業務内容によっては従業員の身体が危険にさらされることがありますが、従業員が自らの裁量で作業方法を改善したり、危険を回避するためにできることは限定的です。

作業方法等は会社が決定することですので、会社は従業員の安全に配慮して危険から保護することが義務付けられています。安全配慮義務と呼ばれるもので、これを怠って生じた損害については、会社が負担しないといけません。

安全配慮義務は、雇用関係がある会社と従業員の間だけではなく、発注企業の設備や器具等を用いて、発注企業から指揮監督を受けて作業をしているような場合は、事実上の雇用関係があるものとして、発注企業と下請企業の従業員の間にも適用されます。

そして、従業員の安全に配慮して危険から保護するために、会社としてできる限りの対応をしていれば、安全配慮義務を履行していたものとして、責任が問われることはありません。

しかし、この裁判では、同様の問題が繰り返し生じていたにもかかわらず、発注企業の対応が不十分であったとして、発注企業は安全配慮義務を怠っていたと判断されました。

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