川義事件(安全配慮義務)

川義事件 事件の経緯

従業員が1人で宿直勤務をしていたときに、呼出し用のブザーが鳴ったため、誰が来たのか確認しようと会社の戸を開けたところ、元同僚で、従業員の意に反して社内に入り込んで来ました。

その後、元同僚が、会社の商品を盗んでいたことをとがめられたため、その従業員を殺害し、その場にあった商品を盗んで逃走しました。

社内には高価な反物や毛皮等の商品が置きっ放しにされていましたが、会社には呼出し用のブザーのみが設置され、のぞき窓、インターホン、防犯チェーン、防犯ベル等の設備はありませんでした。

そのため、遺族が会社に対して、安全配慮義務を怠っていたとして、損害賠償を請求しました。

川義事件 判決の概要

雇用契約とは、従業員が労務を提供して、会社が報酬を支払うことを基本とする契約である。通常、従業員は、会社が指定した場所に配置され、会社が供給する設備や器具等を用いて労務を提供する。

そのため、会社は、報酬を支払う義務があるだけではなく、従業員が労務を提供する場所であったり、設備や器具等を使用したり、会社の指示を受けて労務を提供する過程において、従業員の生命や身体等を危険から保護するよう配慮する義務(「安全配慮義務」)がある。

もちろん、安全配慮義務の具体的な内容は、従業員の職種、労務内容、労務を提供する場所など、安全配慮義務が問題となるそれぞれの状況等によって異なる。

これを本件に照らし合わせると、会社は、従業員1人に社内での宿直勤務を命じたのであるから、宿直勤務中に社内に盗賊等が容易に侵入できないような設備を施して、かつ、万一盗賊等が侵入した場合は危害を免れられるような防犯用具を備えて、もし、これらの整備が困難なときは従業員を増員したり、安全教育を行ったり、従業員の生命や身体等に危険が及ばないよう配慮する義務があった。

そして、実際の状況を見ると、社内には多数の高価な商品が開放的に陳列、保管されていて、休日や夜間には盗賊が侵入する恐れがあった。また、当時、会社では現に商品の紛失事故や盗難が発生したり、不審な電話がしばしばかかってきていたことから、侵入した盗賊が宿直従業員に発見された場合は、危害を加えてくることも十分予見できた。

しかし、会社は、盗賊の侵入を防止するためののぞき窓、インターホン、防犯チェーン等の設備を施さず、侵入した盗賊から危害を免れるための防犯ベル等の防犯用具を備えなかった。また、盗難等の危険を考慮して、休日や夜間の宿直勤務を1人にしないで増員したり、従業員に安全教育を施したりといった措置も講じていなかった。

以上により、会社が安全配慮義務を的確に履行していれば、従業員の殺害を未然に防止できたと考えられる。会社が安全配慮義務を怠ったために発生した事件であるから、会社は遺族に対して、その損害を賠償する義務がある。

川義事件 解説

例えば、工場のプレス機に安全装置がなかったり、階段に手摺りがなかったりすると、事故が起きることは容易に想像できます。

そのような業務上の事故が起きることが予想される場合は、会社はそれを防止する対策を施さないといけません。これを「安全配慮義務」と言います。

会社が安全配慮義務を怠っていて、事故が発生したときは、会社の責任となり、被災した従業員から損賠賠償を請求されます。通常は労災保険から補償を受けられますが、死亡や後遺症が残るようなケースでは、労災保険だけでは不十分で問題が大きくなります。

紹介した裁判では防犯設備等が争点になりましたが、会社が従業員に命じて作業(宿直等)をさせている限り、使用者責任が付いて回ります。

機械や設備の不備による事故は当然ですが、近年は過重労働による過労死が大きな問題になっています。これも会社の安全配慮義務に含まれますので、過重労働にならないよう注意をする必要があります。