同月得喪の社会保険料

同月得喪の社会保険料(厚生年金保険と健康保険の保険料)

  • 従業員を採用して、同じ月に退職した場合、健康保険の保険料及び厚生年金保険の保険料について、正しく処理していますか?
  • 採用した月に退職した場合、健康保険の保険料と厚生年金保険の保険料は、取扱いが異なりますので、注意が必要です。

【解説】

まずは、通常のケースで、どのように社会保険料(厚生年金保険と健康保険の保険料)を処理するのか確認しましょう。

例えば、4月16日に入社して、8月15日に退職した場合は、4月分から7月分まで、4ヶ月分の社会保険料が掛かります。

月の末日に在籍していれば、その月の社会保険料が掛かります。4月末日、5月末日、6月末日、7月末日に在籍していますので、各月の社会保険料が掛かって、8月末日は在籍していませんので、8月分の社会保険料は掛かりません。

なお、社会保険の保険料は制度上、月単位で発生することになっていますので、日割計算はしません。また、暦の月で見ますので、会社ごとに異なる賃金の締切日や支払日は関係ありません。

以上について、健康保険の保険料と厚生年金保険の保険料の取扱いは同じです。

しかし、同じ月に入社(資格取得)と退社(資格喪失)をする場合は、「同月得喪」と言って、健康保険と厚生年金保険で、保険料の取扱いが異なります。

例えば、4月16日に入社して、同じ4月末日に退職した場合は、健康保険も厚生年金保険も共に4月分の保険料が掛かります。制度上、「資格喪失日=退職日の翌日」と定められていて、この場合の資格喪失日は5月1日になります。要するに、通常のケースと同じで、「同月得喪」には該当しません。

例えば、4月25日(同月の末日以外の日)に退職した場合が「同月得喪」に該当して、保険料の取扱いが異なります。

まず、健康保険の保険料については、転職先の健康保険に加入しても、市区町村の国民健康保険に加入しても、4月分の保険料が掛かります。退職後に加入するそれぞれの保険料も掛かりますので、同月得喪の場合、本人は2ヶ月分の健康保険料を納付しないといけません。

また、40歳以上で介護保険の保険料が掛かる場合は、健康保険の保険料と一体的に取り扱われます。

次に、厚生年金保険の保険料については、転職先で厚生年金保険に加入する場合は、4月分の保険料は掛かりません。転職先でのみ厚生年金保険料が掛かります。

会社を退職して国民年金に加入する場合は、従来は、4月分の厚生年金保険料が掛かっていました。つまり、退職後に加入する国民年金の保険料も重複して、本人は2ヶ月分の保険料の納付が義務付けられていました。

しかし、2015年から年金保険料の二重払いが解消されて、被保険者期間とみなされる月(通常は月の末日に加入している年金制度)の保険料を納付すれば良いようになりました。

被保険者期間に反映されない月の保険料を納付する必要はありませんので、現在は、4月分の厚生年金保険料は掛からないで、退職後に加入する国民年金の保険料だけ納付することになります。

20歳以上60歳未満の者については、退職後に、いずれかの年金制度に加入することが義務付けられていますので、同月得喪をしたときは、厚生年金保険料は掛かりません。

例外として、20歳未満の者又は60歳以上の者で、その月に年金制度に加入しない場合は、同月得喪をした月は厚生年金保険の加入期間(被保険者期間)として、1ヶ月分の厚生年金保険料が掛かります。したがって、この場合は、厚生年金保険の保険料を賃金から控除する必要があります。

以上のとおり、同月得喪をした月は、健康保険(及び介護保険)の保険料は掛かりますが、原則的として、厚生年金保険の保険料は掛かりません。

そして、退職者が厚生年金保険又は国民年金の加入手続きをすると、年金事務所から会社に「厚生年金保険料の還付についてのお知らせ」が送付されます。

手続きに時間を要しますので、本来なら厚生年金保険料が掛からない月も、会社の銀行口座から保険料が引き落とされますが、納付義務がなくて徴収された厚生年金保険料は、翌月以降の厚生年金保険料と相殺されます。

20歳以上60歳未満の従業員が同月得喪をして、厚生年金保険料が掛からない月の保険料を賃金から控除するかどうかは、会社の自由です。

控除する場合は、厚生年金保険料が還付(相殺)されたことを確認してから、本人に返還する必要があります。控除しない場合は、その手間を省略できますが、退職者が再就職しない場合は国民年金の加入手続きを怠ることがあります。

なお、雇用保険の保険料は、その都度、支払う賃金に対して掛かりますので、同月得喪の場合も通常どおり控除する必要があります。

健康保険法

健康保険法(第156条)によって、原則的には、各月ごとに健康保険の保険料が掛かることになっていて、特別に、「前月から引き続き被保険者である者がその資格を喪失した場合においては、その月分の保険料は、算定しない。」と規定されています。

例えば、4月16日に入社して、8月15日に退職した場合は、“前月から引き続き被保険者である者”に該当しますので、資格を喪失した8月分の保険料は掛からないことが示されています。

4月16日に入社して、4月25日に退職した場合は、“前月から引き続き被保険者である者”に該当しませんので、当月の保険料が掛かると解釈されます。

厚生年金保険法

厚生年金保険法(第81条)によって、「保険料は、被保険者期間の計算の基礎となる各月につき、徴収するものとする。」と規定されています。被保険者期間を基準として、その期間(月)に対して、厚生年金保険の保険料の納付義務が生じます。

また、厚生年金保険法(第19条)によって、原則として、「被保険者期間を計算する場合には、月によるものとし、被保険者の資格を取得した月からその資格を喪失した月の前月までをこれに算入する。」と規定されています。

例えば、4月16日に入社して、8月15日に退職した場合は、4月から7月までが被保険者期間となって、その期間に対して、厚生年金保険の保険料が掛かります。

また、「被保険者の資格を取得した月にその資格を喪失したときは、その月を1ヶ月として被保険者期間に算入する。ただし、その月に更に被保険者又は国民年金の被保険者の資格を取得したときは、この限りでない。」と規定されています。

同月得喪の場合の規定で、原則的には、1ヶ月として被保険者期間に算入する(保険料の納付義務がある)ことになっていますが、その月に厚生年金保険又は国民年金に加入したときは、被保険者期間に算入しない(保険料の納付義務がない)ことが定められています。

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