振込手数料の控除
振込手数料の控除
従業員が賃金の振込先として、会社が利用している銀行とは別の銀行を指定してきました。振込手数料が余分に掛かりますので、賃金から振込手数料を差し引いても良いでしょうか?
労働基準法の賃金の全額払いの原則に反する行為ですので、賃金から振込手数料を差し引くことはできません。
労働基準法(第24条)によって、「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」と定められています。
ただし、次の税金や社会保険料等については、従業員が負担するものとして、法令に基づいて、賃金から控除することが認められています。
- 源泉所得税
- 住民税
- 雇用保険料
- 健康保険料(介護保険料を含む)
- 厚生年金保険料
しかし、賃金の振込手数料は業務に要する必要経費ですので、従業員に負担させることはできません。つまり、賃金から振込手数料を差し引くことはできません。
賃金の全額払いの原則に反する行為ですので、従業員本人が同意しても不可能です。労働基準法が強制的に適用されます。
したがって、従業員が賃金の振込先として、会社が利用している銀行とは別の銀行を指定してきた場合は、会社の対応としては、次の3通りの方法が考えられます。
- 会社から改めて従業員に事情(振込手数料や事務作業の増加等)を説明して、会社が利用している銀行に口座を開設してもらう。あくまでも本人の意思によりますので、会社が強制することはできません。
- 会社が振込手数料を負担して、従業員が指定する銀行口座に賃金を振り込む。
- 現金で、直接従業員に支払う。
労働基準法(第24条)によって、「賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。」と定められていますが、これは従業員に直接手渡しで賃金を支払うという意味です。労働基準法上は、「直接手渡し=現金」で支払う方法が原則とされています。
ただし、労働基準法施行規則によって、「労働者の同意を得た場合」は、「当該労働者が指定する銀行その他の金融機関に対する当該労働者の預金又は貯金への振込み」によって、賃金を支払う方法が認められています。
労働基準法上の構成としては、賃金は現金で支払う方法が原則で、従業員が同意したときは、本人が指定する銀行口座に振り込んで支払う方法が可能になります。
会社が一方的に賃金の振込先の銀行を決定することはできませんが、従業員が指定する銀行口座に、会社が賃金を振り込む義務はありません。振込先の銀行について、双方が合意できない場合は、現金で支払う方法が残されています。
なお、通達によって、会社が取扱う金融機関は1社1行に限定しないで、複数として従業員の便宜に配慮することが求められています。
これは労働基準法上の義務ではありませんが、振込先の金融機関を1社1行としている場合は、もう1つ追加することが望ましいです。振込先の選択肢がないと、従業員から同意を得られない可能性が高くなります。
ところで、採用面接のときに、「当社の従業員の給与は全員○○銀行(又は△△銀行)に振り込んで支払っています。○○銀行(又は△△銀行)の口座を持っていなければ開設してもらえますか?」と確認すれば、拒否されるケースは少ないと思います。今後はそうしてはいかがでしょうか。