残業手当(割増賃金)の支払いと賃金の控除
残業手当(割増賃金)の支払いと賃金の控除
これまで残業手当を支払わない代わりに、従業員が遅刻をしても賃金を減額・控除していませんでした。取扱いを改めて、適正に残業手当を支払って、賃金を減額・控除しようと思いますが、問題はありますか?
法律的に正しい取扱いですので、方針としては良いと思います。従業員に説明をして、進めてください。
労働基準法(第37条)によって、時間外労働、休日労働、深夜労働をしたときは、それぞれ割増賃金を支払うことが義務付けられています。
従業員が遅刻や早退をしたときに、賃金を減額・控除していないから、割増賃金(残業手当)を支払わなくても良いということにはなりません。
労働基準監督署の調査があると、労働基準法(第37条)違反として、是正勧告の対象になります。そうなると、3年前までさかのぼって、割増賃金(残業手当)を支払うよう指導される可能性が高いです。
一方、従業員が遅刻や早退をしたときは、ノーワーク・ノーペイの原則によって、会社は不就業の時間に対して賃金を支払う義務はありません。月給制の従業員については、不就業の時間に応じた賃金を減額・控除できます。
割増賃金(残業手当)の支払いと賃金の減額・控除は、別々に処理・計算をする必要があります。
そして、会社が取扱いを改める場合は、労使慣行(労働慣行)が問題になることがあります。従業員が遅刻や早退をしても、賃金を減額・控除していなかったとすると、その取扱いが労使慣行(労働慣行)になっている場合があります。
要するに、就業規則には記載していないけれども、暗黙のルールが成立しているものとして、就業規則と同様の効果が認められて、賃金を減額・控除しない取扱いを継続するよう求められます。
また、労働契約法(第8条)によって、「労働者及び使用者は、その合意により、労働契約の内容である労働条件を変更することができる。」と規定されています。
更に、労働契約法(第9条)によって、「使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。」と規定されています。
したがって、従業員が遅刻や早退をしたときに、賃金を減額・控除するよう取扱い(労働条件)を変更する場合は、従業員から同意を得る必要があります。
一方、違法行為については、労使慣行(労働慣行)が成立することはありませんので、従業員の同意は関係なく、会社は適正に割増賃金を支払わないといけません。
賃金を減額・控除するよう取扱い(労働条件)を変更する場合は、従業員から同意を得るために、会社から変更の理由や経緯を説明することが欠かせません。
変更と同時に、適正に割増賃金(残業手当)を支払って、法律的に正しい取扱いに改めることを従業員に約束すれば、(これまでの労使関係によりますが)通常は理解が得られると思います。
従業員から同意を得ないまま労働条件を変更すると、会社に対して不信感を持たれて、労使関係が悪化します。また、労働契約法によって、労働条件の変更は無効になりますので、従業員と丁寧に話し合うことが重要です。
執筆者:社会保険労務士 木下貴雄【 登録番号 第27020179号 】
就業規則を専門とする社会保険労務士です。メールを用いた関連サービスは20年以上の実績があり、全国の中小零細企業を対象に、これまで900社以上の就業規則の作成・変更に携わってきました。

