年次有給休暇の買取り

年次有給休暇の買取り

退職する従業員から、未消化の年次有給休暇を買い取るよう求められました。会社は応じないといけませんか?

会社に応じる義務はありませんので、年次有給休暇の買取りは拒否しても構いません。

労働基準法(第39条)によって、6ヶ月継続勤務をして、出勤率が8割以上の従業員に対して、10日の年次有給休暇を付与することが定められています。

例えば、2025年4月1日に入社して、2025年10月1日に10日の年次有給休暇を付与したとします。付与日から2年後の時効を迎える2027年9月末日まで、従業員は自由に年次有給休暇を取得できます。

年次有給休暇の買取りは、そのタイミングによって、考え方が異なります。以下のように、3つの場面に分類されます。

通常時の年次有給休暇の買取り

もし、付与した2025年10月1日に、10日の年次有給休暇を会社が買い取ったとすると、従業員は年次有給休暇を取得できないようになります。

年次有給休暇とは、労働日の勤務を免除して、賃金を支払うという制度です。賃金を支払っただけでは不十分で、年次有給休暇を与えたことにはなりません。

年次有給休暇の買取りは、結果的に、労働基準法で認められている年次有給休暇の取得を制限する行為として、労働基準法違反になります。

時効で消滅する年次有給休暇の買取り

例えば、2025年10月1日に付与した年次有給休暇は、時効によって、未消化分は2年後の2027年10月1日に無効になります。未消化の年次有給休暇が2日残っていたとして、1日につき3,000円で買い取る行為については、どうでしょうか。

買い取ることによって、年次有給休暇を取得する権利が消滅するのではなく、時効によって、権利が消滅するものです。時効を迎えるまでは、従業員は年次有給休暇を取得できますので、労働基準法と照らし合わせて、違法とは言えません。

しかし、時効で消滅する年次有給休暇を買い取ることを従業員に周知すると、年次有給休暇の取得の抑制に繋がりますので、法律の趣旨に反する望ましくない行為とされています。

年次有給休暇の買取りを、会社から従業員に申し出るべきではありませんし、従業員が申し出ても会社は応じるべきではありません。

退職で消滅する年次有給休暇の買取り

年次有給休暇は、労働日の勤務を免除して、賃金を支払うという制度です。したがって、退職日以降は取得できません。無効になって、権利が消滅します。

退職によって消滅する年次有給休暇を買い取る行為については、どうでしょうか。

退職日までは、従業員は年次有給休暇を取得できますので、労働基準法と照らし合わせて、違法とは言えません。また、取得の抑制にも繋がりませんので、法律の趣旨と照らし合わせても、差し支えないとされています。

ただし、この場合でも、買取りが義務付けられる訳はありませんので、買取りが成立するかどうかは(いくらで買い取るかも含めて)、労使間の個別の合意によります。

例えば、従業員がまとめて年次有給休暇を請求したけれども、引継ぎが不十分で、年次有給休暇を取り消して欲しいと考える場合に、会社から年次有給休暇の買取りを働き掛けることがあります。

特別な事情がない場合に、退職する従業員から会社に、「未消化の年次有給休暇を買い取って欲しい」と申し出たとしても、応じる必要はありません。会社の判断によります。