御国ハイヤー事件

御国ハイヤー事件 事件の経緯

会社の退職金規程(就業規則)には、次のような規定が設けられていました。

「退職金は、退職時の基本給月額に勤続年数を乗じて得た金額とする。勤続年数は入社の日から起算し、退職又は死亡の日までとし、1年末満の端数はこれを日割とする。」

会社は従業員から同意を得ないまま、退職金規程(就業規則)を廃止して、廃止日までの勤続期間に対応する退職金は支払うけれども、それ以降の勤続期間は退職金の算定基礎となる勤続年数に算入しないことを告示しました。

その後、会社は退職した従業員に対して、告示したとおり、退職金規程(就業規則)の廃止日までの勤続期間(勤続年数)を基準にして算定した退職金を支払いました。

これに対して従業員が、退職金規程(就業規則)の変更は無効であると主張して、変更前の退職金規程(就業規則)に基づいて退職金を支払うことを求めて、会社を提訴しました。

御国ハイヤー事件 判決の概要

退職金規程は、就業規則としての性格を有している。

本件の就業規則(退職金規程)の変更は、従業員に対して、廃止日以降の勤続期間を退職金の算定基礎となる勤続年数に算入しないという不利益を一方的に課すものである。

それにもかかわらず、会社はその代償となる労働条件を何ら提供していない。また、不利益を是認できるような特別な事情も認められない。

したがって、合理的とは言えないから、就業規則(退職金規程)の変更は無効である。

御国ハイヤー事件 解説

会社が従業員から同意を得ないまま、就業規則(退職金規程)を従業員にとって不利益に変更して、その変更が有効か無効か争われた裁判例です。

従業員に対して、「退職時の基本給に勤続年数を掛けた金額を退職金として支払う」と約束していたにもかかわらず、会社から事前の説明がなく「この日以降は退職金の勤続年数にカウントしない」と言われて、納得する従業員は皆無でしょう。

労働契約法の第9条によって、原則的には、従業員の同意がなければ、就業規則を従業員にとって不利益に変更できないことが定められています。

ただし、労働契約法の第10条によって、例外的に、一定の要件を満たしている場合(就業規則の変更が合理的と認められる場合)は、変更後の就業規則が有効になることが定められています。

この最高裁判決は、労働契約法が成立する前のものですが、考え方は今も当時も同じです。

就業規則は統一的・画一的な処理をする性質があることから、就業規則の変更が合理的と認められる場合は、就業規則の変更に反対する従業員についても、変更後の就業規則が適用されます。

仮に、「反対する従業員が1人でもいたら、就業規則は変更できない」とすると、大企業は就業規則を変更できないようになります。

就業規則を変更する場合に、それが合理的かどうかがポイントになります。

この裁判では、退職金を減額するという不利益が従業員に及ぶにもかかわらず、その代償となる措置を示していない上に、不利益に変更せざるを得ない特別な事情もなかったことから、就業規則の変更は合理的とは言えないと判断しました。

つまり、就業規則の不利益変更は無効で、変更前の退職金規程(就業規則)に基づいて退職金を支払うことになりました。

就業規則の不利益変更の合理性の判断は、これまでの裁判の積み重ねによって整理されて、労働契約法では、次の要素を総合的に考慮することが示されています。

この裁判になったケースで言うと、少なくとも、退職金を減額しなければならない理由(労働条件の変更の必要性)を整理して、不利益を緩和する代償措置(従業員が受ける不利益の程度)を検討して、従業員とよく話し合うこと(労働組合等との交渉の状況)が必要でした。

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