有期雇用の正社員

有期雇用の正社員

無期雇用は解雇が難しいので、有期雇用で採用することを考えていますが、応募者の減少は避けたいので、正社員で募集しても問題はないですか?

法律的には問題はありませんが、労使間で思い違いが生じないように、注意をする必要があります。

労働基準法に、”正社員”を定義する規定はありません。正社員、パートタイマー、アルバイト、嘱託、契約社員、臨時従業員など、従業員の呼び方や区別の仕方は、それぞれの会社の自由です。

通常は就業規則で、その会社の従業員の区分(種類)及びそれぞれの定義を定めています。したがって、就業規則の定義と矛盾していなければ、例えば、正社員として1年間の期間を定めて雇用することは、法律的には可能です。

そして、従業員を採用するときは、労働基準法(第15条)によって、労働条件を明示することが義務付けられています。また、労働基準法施行規則によって、労働契約の期間、労働時間、賃金に関する事項など、重要な労働条件については、書面(雇用契約書や労働条件通知書)を交付して明示することが義務付けられています。

したがって、採用時に交付する雇用契約書等に、具体的な労働契約の期間を記載することになります。また、就業規則の適用を明らかにするために、従業員の区分・種類を明示することが望ましいです。

当然ですが、明示事項として定められている労働条件については、採用を決定する前に、面接の段階で説明をする必要があります。

しかし、一般的には「正社員=無期雇用」ですので、会社が正社員の募集をすると、定年年齢まで勤務を継続するものと思い込んで応募してきます。採用面接を行って、会社から有期雇用であることを説明すると、辞退されることが予想されます。そうなると、会社も応募者もそれまでに要した時間が無駄になります。

また、労使間の思い違いはトラブルの原因になりますので、できる限り排除するべきです。仮に、応募者が勘違いしたまま期間を定めて雇用して、会社が雇止めをすると大きな問題になります。

有期雇用であることを明確にするために、「正社員」とは別に「契約社員」を設定して、「契約社員」として期間を定めて雇用する方法が良いと思います。「契約社員=有期雇用」は一般的ですので、応募者が無期雇用と勘違いするケースを減らせます。

その場合は、就業規則に、「契約社員」の区分及びその定義を追加する必要があります。

ただし、「契約社員」で募集すると、「正社員」で募集した場合より、応募者数が少なくなる傾向があります。「契約社員」という呼び方が敬遠されるのかもしれませんが、有期雇用であることが第一の原因と思います。

有期雇用の事実を隠したまま、正社員で募集をすると、応募者が集まりやすいかもしれませんが、無期雇用と思い込んだ人の応募が増えて、双方に無駄な時間が生じるだけです。

応募者数を優先するかどうかは経営判断によりますが、契約社員で募集する方が賢明と思います。また、求人に関する情報について、虚偽の表示や誤解を生じさせる表示をしていると、職業安定法違反の指摘を受ける恐れがあります。

そして、期間を定めて雇用する場合は、更新に関する記載の仕方が重要です。期間を定めて雇用する場合は、「更新の有無」、及び、更新の可能性がある場合は「その判断基準」を明示しないといけません。

とりあえず、期間を定めて雇用して、見込みがあると会社が判断した者は正社員に登用したいということであれば、雇用契約書に次のような記載をします。

「契約期間の満了によって、本契約は当然に終了する。ただし、従業員の希望により、当人の勤務態度、勤務成績、職務遂行能力等を考慮して、新たに採用することがある。」

原則的には契約期間の満了によって契約を終了して、会社が認めた場合に限って正社員として採用するという構成にしています。従業員には嫌がられると思いますが、会社の実際の考えがそうであれば、仕方がないと思います。

また別の事例として、原則的には、契約を更新して、問題があれば契約を終了するという構成になっていると、契約を終了する場合は、問題があったことを会社が立証する必要があります。

もし、契約期間中に従業員が問題行動をして、会社が指導や教育を怠っていると、問題として認識していなかったと判断されて、会社の主張は認められにくくなります。

会社(経営者、上司、採用担当者)がした発言等によって、「正社員として採用される」と本人が期待することに正当な理由がある場合は、そう思わせた会社に責任があると考えられます。労働者の期待権が保護されますので、無用な期待をさせないように、発言には注意をする必要があります。