納得できない労災保険の手続きと証明

納得できない労災保険の手続きと証明

従業員から、「仕事が原因でうつ病になったので、労災保険の手続きをして欲しい」と言われました。会社としては納得できませんが、手続きをしないといけないのでしょうか?

労働基準監督署に対して、会社としては業務災害とは認識していないことを伝えた上で、労災保険の給付申請の手続きについては、協力した方が良いと思います。

例えば、従業員が工場で機械の操作を誤って怪我をしたときは、通常は会社が労災保険の申請書に必要事項を記入して、別途、医師の証明を受けたりして、手続きをしていると思います。

労災保険の給付は、会社ではなく、従業員に対して行われますので、労災保険の給付申請は、本来は従業員が主体となって行うものです。様式を見ると、請求人(申請人)の欄には、従業員の住所と氏名を記載するようになっていることが確認できます。

ただし、労働者災害補償保険法の施行規則(第23条)によって、次のように規定されています。

  1. 保険給付を受けるべき者が、事故のため、みずから保険給付の請求その他の手続を行うことが困難である場合には、事業主は、その手続を行うことができるように助力しなければならない。
  2. 事業主は、保険給付を受けるべき者から保険給付を受けるために必要な証明を求められたときは、すみやかに証明をしなければならない。

従業員が保険給付の請求の手続きを行うことが困難な場合は、会社は協力することが義務付けられています。工場で怪我をして、特別な事情がなければ、業務災害であることは明らかですので、従業員が速やかに給付を受けられるように、本人に代わって、会社は手続きの協力をするべきです。

また、従業員から必要な証明を求められたときは、速やかに証明することも義務付けられています。例えば、休業補償給付支給請求書では、次の事項について、会社が証明することになっています。

証明となっていますが、実務上は会社が記入するケースが多いです。

そして、業務災害と認められるかどうかは、「災害の原因」がポイントになりますが、うつ病等の精神疾患については、会社が判断することは困難です。業務災害に該当するかどうかは、労働基準監督署が関係者から聴き取り調査を行ったりして、判断します。最終的には裁判所の判断になります。

なお、「精神障害の労災認定」のパンフレットがありますので、参考になります。

仮に、業務災害でない場合は、要するに、うつ病等の精神疾患を発症した原因が業務以外にある場合は、法律上は、健康保険を利用するべきで、労災保険は利用できません。

「精神障害の労災認定」に定められているような長時間労働やパワーハラスメント、セクシュアルハラスメント等の事実がなければ、会社は労災保険の手続きをしても良いのか(不当な労災保険の手続きをして会社は共犯にならないのか)と不安になるかもしれません。

労働者災害補償保険法の施行規則(第23条)で、会社は保険給付の手続きの協力をして、証明することが義務付けられていますが、これには続きがあって、同じ施行規則(第23条の2)によって、次のように規定されています。

  1. 事業主は、当該事業主の事業に係る業務災害、複数業務要因災害又は通勤災害に関する保険給付の請求について、所轄労働基準監督署長に意見を申し出ることができる。
  2. 前項の意見の申出は、次に掲げる事項を記載した書面を所轄労働基準監督署長に提出することにより行うものとする。
  • 労働保険番号
  • 事業主の氏名又は名称及び住所又は所在地
  • 業務災害、複数業務要因災害又は通勤災害を被って労働者の氏名及び生年月日
  • 労働者の負傷若しくは発病又は死亡の年月日
  • 事業主の意見

会社としては業務災害と認識していなくても、本人が業務災害と主張するのであれば、労働者災害補償保険法の施行規則に従って対応するのが良いと思います。つまり、会社は保険給付の手続きをして、その上で、意見書を提出して、労災認定は労働基準監督署の判断に委ねます。

意見書の様式は自由ですので、上の必要事項が記載されていれば問題はありません。

事業主の意見の内容については、申請書や請求書の「災害の原因」の欄がどのように記載されているのかによりますが、「事実と相違している」、「事実を確認していない」、「本人の申出に基づいて記入したもので、会社としては業務災害とは認識していません」のような趣旨になります。

その後、労働基準監督署による調査が行われると思いますので、適切に対応してください。