名古屋自動車学校事件

名古屋自動車学校事件 事件の経緯

自動車教習所の教習指導員の業務に従事するために、正職員として期間を定めないで雇用されました。正職員の基本給は月給制で、賞与は基本給に所定の支給率を乗じて計算して年2回支給されていました。

会社の定年年齢は60歳で、希望する者は嘱託職員として1年の期間を定めて再雇用して、原則として65歳まで更新を繰り返していました。

そして、定年年齢に達した正職員が嘱託職員として再雇用されて、定年前と同じ教習指導員の業務に引き続き従事しました。定年前の基本給は月額17万円から18万円だったのですが、定年後の1年間は月額約8万円、それ以降は月額約7万円に減額されました。

また、定年前の賞与は3年間の平均で1回につき約23万円が支給されていましたが、定年後は1回につき約9万円に減額されました。なお、職員は定年後に、厚生年金保険の老齢厚生年金及び雇用保険の高年齢雇用継続給付金を受給していました。

職員が、基本給及び賞与の減額は労働契約法第20条に違反すると主張して、差額の支払いを求めて会社を提訴しました。

名古屋自動車学校事件 判決の概要

原審(高裁)は、次のとおり、職員の基本給及び賞与の損害賠償請求を認めるべきと判断した。

職員は、定年の前後で、業務の内容、責任の程度、配置の変更の範囲に相違がなかったにもかかわらず、定年後の基本給及び賞与の額が、定年前より大きく下回っている。これは労使自治が反映された結果ではなく、労働者の生活保障の観点から見過ごせないことを考慮すると、正職員と嘱託職員の労働条件の相違のうち、基本給の額が定年前の60%を下回る部分、及び、賞与の額が定年前の60%を下回る部分は、労働契約法第20条にいう不合理と認められる。

しかし、原審(高裁)の判断は是認できない。その理由は、次のとおりである。

労働契約法第20条は、有期労働契約を締結している労働者と無期労働契約を締結している労働者の労働条件の格差が問題となっていたことを踏まえて、公正な処遇を図るために、労働条件について、期間の定めがあることによる不合理な扱いを禁止したものである。

両者の労働条件の相違が基本給や賞与であったとしても、同条にいう不合理と認められ場合はあり得る。ただし、その判断に当たっては、他の労働条件の相違と同様に、その会社における基本給及び賞与の性質や支給する目的を踏まえて、所定の事情を考慮して、労働条件の相違が不合理と認められるかどうかを検討するべきである。

まず、正職員と嘱託職員の基本給の額が異なるという労働条件の相違について、検討する。

事実関係によると、正職員の基本給は、勤続年数に応じて額が定められる勤続給としての性質だけではなく、職務内容に応じて額が定められる職務給としての性質も有する。また、長期雇用を前提として、役職に就いて昇進が想定されていることから功績給も含まれていて、職務遂行能力に応じて額が定められる職能給としての性質も有する。また、事実関係からは、様々な性質を有する基本給を支給する目的を確定することはできない。

一方、嘱託職員は役職に就くことが想定されていないことに加えて、嘱託職員の基本給は正職員の基本給とは異なる基準で支給されていて、勤続年数に応じて増額されなかったこと等から、正職員の基本給とは異なる性質や支給する目的があったと考えられる。

しかし、原審は、正職員の基本給は年功的性格があると評価しただけで、他の性質の有無及び支給の目的を検討していない。また、嘱託職員の基本給についても、その性質及び支給の目的を検討していない。

更に、労使交渉に関する事情を労働契約法第20条にいう「その他の事情」として考慮する際は、合意の有無や内容といった労使交渉の結果だけではなく、経緯も勘案するべきである。会社と労働組合は嘱託職員の労働条件の見直しについて交渉していたが、原審は、労使交渉の結果に着目するだけで、見直しの要求等に対する会社の回答やこれに対する労働組合の反応といった具体的な経緯を勘案していない。

以上により、正職員と嘱託職員の基本給の額が異なるという労働条件の相違について、基本給の性質や支給の目的を踏まえないで、また、労使交渉に関する事情を適切に考慮しないまま、労働契約法第20条にいう不合理と認められるとした原審の判断は、法の解釈・適用を誤っている。

次に、正職員と嘱託職員の賞与の額が異なるという労働条件の相違について、検討する。

事実関係によると、嘱託職員の賞与は、正職員の賞与とは異なる基準で支給されていたが、原審は、賞与の性質及び支給の目的を何ら検討していない。賞与の額の相違について、賞与の性質や支給の目的を踏まえないで、また、労使交渉に関する事情を適切に考慮しないまま、労働契約法第20条にいう不合理と認められるとした原審の判断は、法の解釈・適用を誤っている。

職員の基本給及び賞与について、労働条件の相違が労働契約法第20条にいう不合理と認められるかどうか、更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻す。

名古屋自動車学校事件 解説

正社員の定年年齢を60歳として、雇用の継続を希望する者は嘱託従業員として65歳まで再雇用している会社が多いです。その場合は、再雇用のタイミングで賃金を減額するケースが一般的です。この裁判になった企業では、定年前後で職務内容が同じにもかかわらず、基本給と賞与を50%以下に減額して、トラブルになりました。

労働契約法第20条によって、有期労働契約を締結している労働者と無期労働契約を締結している労働者で、労働条件の相違がある場合は、業務の内容、責任の程度、配置の変更の範囲、その他の事情を考慮して、不合理な取扱い(相違)が禁止されています。反対から見ると、所定の事情を考慮して、合理的な範囲内であれば、労働条件の相違が認められるということです。

再雇用をした嘱託従業員と正社員の賃金格差について、争われた最高裁判例として、長澤運輸事件があります。そこでは、業務の内容、責任の程度、配置の変更の範囲が同じであったとしても、定年後に再雇用する場合は、それが「その他の事情」として考慮する事情に当たることが示されました。また、賃金の相違がある場合は、賃金(各手当)の趣旨を個別に考慮して不合理かどうかを判断することが示されました。

名古屋自動車学校事件の原審(高裁)は、労働者の生活保障の観点を考慮して、定年前の基本給の額の60%を下回る部分、及び、定年前の賞与の額の60%を下回る部分は不合理(違法)であると判断して、差額の支払いを命じました。

そして、最高裁は、長澤運輸事件と同様の枠組みで、基本給及び賞与の性質や支給の目的を踏まえて、労働条件の相違が不合理かどうかを判断することを示したのですが、高裁の検討が不十分であったとして結論は出さないで、原審(高裁)に差し戻しました。また、労働者の生活保障の観点(「定年前の60%」であることの根拠)については、触れられませんでした。

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執筆者:社会保険労務士 木下貴雄【 登録番号 第27020179号 】
就業規則を専門とする社会保険労務士です。中小零細企業の就業規則に関する悩みは全て解決いたします。日々の業務やホームページでは、分かりやすく伝えることを心掛けています。