九州惣菜事件

九州惣菜事件 事件の経緯

フルタイムで勤務していた従業員が、定年退職することになりました。

定年前の賃金は月額335,500円で、従業員は定年後もフルタイムで再雇用されることを希望していましたが、会社から再雇用後はパートタイムとして、賃金を定年前の約25%(月額86,400円=900円/時間×6時間/日×16日/月)に減額するという提案を受けたため、従業員は再雇用を拒否しました。

高年齢者雇用安定法及び労働契約法に基づいて、定年後も雇用契約が存在し、賃金について定年前の賃金の8割を相当とする黙示的な合意が成立していると主張して、労働契約上の権利を有する地位の確認及び賃金の支払を求めて、会社を提訴しました。

また、予備的に、再雇用後の労働条件について、著しく低額の賃金を提示したことは、再雇用の機会を侵害する不法行為に該当すると主張して、逸失利益金や慰謝料の支払を求めました。

九州惣菜事件 判決の概要

労働契約法第20条は、「有期労働契約を締結している労働者」の労働条件について規定するものであるが、定年退職後、会社と従業員は再雇用契約を締結していないから、本件において、この規定を適用することはできない。

仮に、本件のような有期労働契約の申込みについて適用されるとしても、問題となる賃金の格差について、会社の就業規則に賃金表の記載はなく、フルタイムもパートタイムも、賃金は能力及び作業内容等を勘案して各人ごとに決定することになっていて、契約期間の定めの有無が原因で賃金に相違が生じる体系になっていない。

したがって、定年前の賃金と会社が提案した賃金の格差が、労働契約に期間の定めがあることによって生じたものとは言えない。会社の提案が、労働契約法第20条に違反するとは認められない。

そして、高年齢者雇用安定法第9条に基づく高年齢者雇用確保措置を講じる義務は、定年退職者が希望する労働条件で雇用することを会社に義務付けるものではない。

しかし、再雇用について、極めて不合理で、高年齢者の希望や期待に著しく反し、到底受け入れられない労働条件を提示する行為は、継続雇用制度の趣旨に反して違法性があると考えられる。また、65歳まで安定的に雇用されるという法律上保護されるべき利益を侵害する不法行為となり得る。

継続雇用制度を導入する場合も、定年前後の労働条件については、継続性や連続性がある程度確保されるべきで、このように考えることが高年齢者雇用確保措置の趣旨に合致する。

したがって、例外的に、定年前の労働条件と継続性や連続性に欠ける労働条件の提示が継続雇用制度の下で許容されるためには、そのような提示を正当化する合理的な理由が必要である。

しかし、会社が提案した賃金は、定年前の賃金の約25%で、定年退職前の労働条件と継続性や連続性を確保するものとは言えない。会社の提案が継続雇用制度の趣旨に沿うと言えるためには、そのような大幅な賃金の減額を正当化する合理的な理由が必要であるが、パートタイムに転換して賃金の約75%の減額を正当化する合理的な理由は認められない。

会社が労働条件を提案してそれに終始したことは、継続雇用制度の趣旨に反し、裁量権を逸脱又は濫用したものであり、違法性があると言わざるを得ない。従業員に対する不法行為が成立すると認められる。

九州惣菜事件 解説

定年を60歳として継続雇用制度を導入している会社で、定年後に再雇用する従業員に対して、フルタイムからパートタイムに転換した上で、定年前の賃金の約25%に減額する(約75%引き下げる)提案をして、従業員がそれを拒否して裁判になったケースです。

労働契約法(第20条)は削除されて、現在は、パートタイム・有期雇用労働法(第8条)に規定されています。同一労働同一賃金の規定で、有期労働契約の従業員と無期労働契約の従業員の労働条件について、業務の内容、責任の程度、配置の変更の範囲、その他の事情を考慮して、不合理な相違を設けることが禁止されています

しかし、裁判になったケースは、定年前は無期労働契約を締結していましたので、労働契約法(第20条)の規定は適用されないことが示されました。

次に、高年齢者雇用安定法(第9条)によって、次のように規定されています。

定年の定めをしている事業主は、その雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するため、次の各号に掲げる措置のいずれかを講じなければならない。

  1. 当該定年の引上げ
  2. 継続雇用制度の導入
  3. 当該定年の定めの廃止

就業規則で60歳の定年制を定めている会社は、2.の継続雇用制度を導入して、希望者全員を65歳まで継続して雇用することが義務付けられています。

この場合は再雇用することになりますが、再雇用後(定年後)の労働条件をどうするかは、特に定められていません。原則として、再雇用は新規採用と同様に、双方の合意に基づいて、新しく労働条件を決定し直します。

この裁判では、会社が大幅に減額した賃金を提示して、合意に至らなくて、紛争になりました。法律上、会社が再雇用を拒否することはできませんが、会社は自由に労働条件を引き下げることができるのかが争点になります。

どこまでも引き下げられるとすると、法律で定めている高年齢者雇用確保措置が無意味なものになってしまいますので、規定の趣旨に反するような受け入れられない労働条件を提示することは、違法行為(不法行為)として許されないと判断しました。

そして、「1.定年の引上げ」や「3.定年制の廃止」ではない「2.継続雇用制度」を導入している会社でも、労働条件はある程度継続性や連続性を確保する必要があって、労働条件を著しく引き下げる場合は、合理的な理由が必要であることが示されました。

定年前の賃金の約25%に減額することに合理的な理由がなく、不法行為に該当すると認めて、会社に対して100万円の慰謝料を支払うよう命じました。

ところで、このケースでは、従業員が更新を拒否して、労働契約を締結しませんでしたので、労働契約上の地位(職場復帰)は認められませんでしたが、一旦、更新を受け入れた上で(労働契約を締結した上で)、賃金等の労働条件について争っていれば結論が違うものになっていたかもしれません。

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