日本郵便事件(同一労働同一賃金)
日本郵便事件(同一労働同一賃金) 事件の経緯
会社には、無期労働契約を締結する正社員と有期労働契約を締結する契約社員が存在し、正社員の中には契約社員と同様に、郵便局で配達等の一般的な業務に従事する者がいました。
ただし、正社員は、業務上の必要によって、配置転換や職種転換を命じられることがありました。また、正社員の人事評価は、業務の実績、部下の育成指導状況、組織全体への貢献など、項目が多岐にわたっていて、昇任や昇格することもありました。
一方、契約社員は、郵便局で特定の業務に従事し、他の郵便局へ異動を命じられることはありませんでした。また、契約社員の人事評価は、担当業務に関する項目のみで、昇任や昇格することはありませんでした。契約社員の契約期間は6ヶ月又は1年以内でしたが、更新を繰り返して5年以上勤務する者もいました。
会社には、正社員への登用制度(適性試験や面接等により選考)が設けられていて、人事評価や勤続年数等の要件を満たした契約社員が応募できました。
- 夏期冬期休暇
−就業規則によって、正社員は、有給で夏期休暇(6月1日から9月30日までの間で3日)及び冬期休暇(10月1日から翌年3月31日までの間で3日)を取得できることが定められていました。一方、契約社員は、夏期休暇や冬期休暇を取得できませんでした。 - 年末年始勤務手当
−12月29日から1月3日までの各日に出勤した正社員に、年末年始勤務手当が支給されました。その額は、12月29日から31日までは1日につき4,000円、1月1日から3日までは1日につき5,000円で、勤務時間が4時間以下の日はその半額が支給されました。一方、契約社員には、年末年始勤務手当は支給されませんでした。 - 病気休暇
−私傷病により勤務できない正社員は、有給の病気休暇を90日間取得できました。契約社員も病気休暇を取得できましたが、無給で1年につき10日以内に限られていました。 - 扶養手当
−扶養親族がいる正社員に、扶養親族1人につき月額1,500円から15,800円の扶養手当が支給されました。一方、契約社員には、扶養手当は支給されませんでした。 - 年始期間の祝日給
−正社員は、年始期間(1月1日から3日まで)に特別休暇を取得できました。また、その年始期間に出勤した正社員に、その日の勤務時間に対して35%の割増率で計算した額の祝日給が支給されました。一方、契約社員は特別休暇を取得できなくて、年始期間に出勤しても割増しの祝日給は支給されませんでした。
契約社員が、正社員との間で、夏期冬期休暇、年末年始勤務手当、病気休暇、扶養手当、年始期間の祝日給の取扱いに相違があったことは、労働契約法第20条に違反すると主張して、損害賠償等の支払いを求めて、会社を提訴しました。
日本郵便事件(同一労働同一賃金) 判決の概要
有期労働契約を締結している者と無期労働契約を締結している者に賃金(手当)の相違がある場合は、その賃金(手当)の趣旨を個別に考慮して、労働契約法第20条の不合理に当たるかどうかを判断する。
賃金以外の労働条件の相違についても同様に、その労働条件の趣旨を個別に考慮して判断する。
- 夏期冬期休暇は、年次有給休暇とは別に、心身の回復を図ることを目的として与えるものと認められる。契約社員の契約期間は6ヶ月又は1年以内で、繁忙期に限定した短期間の勤務ではないことから、夏期冬期休暇を与える趣旨は契約社員にも当てはまる。
- 年末年始勤務手当は、繁忙期の年末年始に出勤した正社員に支給することから、多くの人が休日として過ごしている期間に勤務をすることの対価として支給するものと認められる。また、出勤したことを支給要件とするもので、支給額は業務の内容とは無関係に一律に定められている。このような年末年始勤務手当の性質や支給要件及び支給額に照らすと、これを支給する趣旨は契約社員にも当てはまる。
- 病気休暇は、私傷病により勤務できなくなった正社員の生活保障を図り、療養に専念させて、継続的な雇用を確保することを目的として与えるものと認められる。このような目的に照らすと、相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、契約社員にも当てはまる。そして、契約社員の契約期間は6ヶ月又は1年以内であるけれども、更新を繰り返して相応に継続的な勤務が見込まれる。
- 扶養手当は、扶養親族がいる正社員の生活設計を容易にして、継続的な雇用を確保することを目的として支給するものと認められる。このような目的に照らすと、扶養親族があり、かつ、相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、契約社員にも当てはまる。
- 正社員が年始期間に取得できる特別休暇は、多くの人にとって年始は休日という慣行に沿って設けたもので、年始期間の勤務に対する祝日給は、特別休暇を取得できるにもかかわらず、出勤したことの代償として支給するものと認められる。契約社員が年始期間に出勤しても祝日給が支給されないのは、特別休暇が与えられていないことを反映したものと考えられる。繁忙期の労働力を確保するために、契約社員に特別休暇を与えないことは理由があるけれども、年始期間の勤務の代償として祝日給を支給する趣旨は、契約社員にも当てはまる。
以上により、職務の内容や配置の変更の範囲その他の事情に相応の相違があることを考慮しても、正社員と契約社員の間に、夏期冬期休暇、年末年始勤務手当、病気休暇、扶養手当、年始期間の祝日給の取扱いに相違があることは、いずれも労働契約法第20条の不合理に該当する。
日本郵便事件(同一労働同一賃金) 解説
同一労働同一賃金に関する最高裁判決で、賃金(手当)と休暇が争点になったケースです。
年末年始勤務手当と祝日給は、年末年始に出勤したことの代償として支払うもので、このような趣旨は契約社員にも当てはまります。病気休暇と扶養手当は、継続的な雇用を確保することを目的として支給するもので、このような趣旨は、相応に継続的な勤務が見込まれるのであれば、契約社員にも当てはまります。その結果、待遇(労働条件)の相違はどれも認められず、不合理と判断されました。
賞与(大阪医科大学事件)と退職金(メトロコマース事件)については、“正社員として”職務を遂行し得る人材の確保や定着を図ることを目的として支払うことが認められたのですが、日本郵便事件の手当や休暇については、それが認められませんでした。
不支給が認められた賞与や退職金は、基本給を基準にして支給額を決定していました。そして、基本給は通常、職務の内容や会社への貢献度等を評価して支給額を決定します。したがって、職務の内容が異なれば、関連が強い(基本給と連動する)賞与や退職金の相違が認められやすくなります。
しかし、日本郵便事件で否定された手当や休暇のように、支給額の決定方法や要件を見て、基本給や職務の内容と関連しない(福利厚生の性質が強い)労働条件については、職務の内容が違っていても、相違が認められにくいです。
また、賞与、退職金、基本給の趣旨は様々で複雑ですが、個々の手当や休暇の趣旨は特定しやすいので、合理的な説明ができなければ不合理と判断されやすいです。
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