ハマキョウレックス事件

ハマキョウレックス事件 事件の経緯

運送業を営む会社に、「契約社員」として期間を定めて雇用され、入社後はトラックの運転手として配送業務に従事していました。

会社には、同じ配送業務に従事する「正社員」がいたのですが、正社員には、無事故手当、作業手当、給食手当、皆勤手当、通勤手当、住宅手当が支給されていました。

一方、契約社員については、正社員より少ない金額で通勤手当が設定されていて、その他の手当が支給されていませんでした。

これに対して契約社員が、このような取扱いは労働契約法の第20条に違反していると主張して、正社員に支給していた諸手当と通勤手当の差額の支払を求めて、会社を提訴しました。

ハマキョウレックス事件 判決の概要

トラック運転手として勤務している契約社員と正社員を比較すると、業務の内容、責任の程度に関しては、相異は認められない。

配置の変更に関しては、正社員就業規則には全国規模で転勤や出向を命じることが記載されているが、契約社員就業規則にはそのような記載がなく、転勤や出向は予定されていない。

また、正社員には等級役職制度が設けられていて、将来、会社の中核を担う人材として登用される可能性があるが、契約社員はそのような人材に登用されることは予定されていない。

  1. 1ヶ月間無事故だったときは、1万円の無事故手当を正社員に支給していた。無事故手当は、優良ドライバーの育成や安全輸送による顧客の信頼獲得を目的として支給しているものと考えられる。契約社員と正社員の職務の内容は同じであるから、安全運転や事故防止の必要性に差異はない。
  2. 正社員給与規程には特殊業務に携わる者に対して、月額1万円から2万円の範囲内で作業手当を支給することが記載されているが、実際には一律に月額1万円の作業手当を正社員に支給していた。作業手当は、特定の作業を行った対価として支給しているものと考えられる。契約社員と正社員の職務の内容は同じであるから、行った作業に対する金銭的な評価に差異はない。
  3. 食事に要する費用を補助するために、月額3,500円の給食手当を正社員に支給していた。契約社員と正社員の職務の内容や勤務時間は同じであるから、勤務時間中に食事を取ることの必要性やその程度に差異はない。
  4. 全営業日に出勤したときは、月額1万円の皆勤手当を正社員に支給していた。皆勤手当は、会社が運送業務を円滑に進めるために一定数の運転手を確保する必要があることから、皆勤を奨励する目的で支給しているものと考えられる。契約社員と正社員の職務の内容は同じであるから、運転手を確保することの必要性に差異はない。

以上により、正社員に1.無事故手当、2.作業手当、3.給食手当、4.皆勤手当を支給する一方で、契約社員にこれらを支給しないという労働条件の相違は、不合理と言える。

  1. 通勤に要する費用を補助するために、契約社員には月額3,000円の通勤手当を支給していたが、正社員給与規程を基準にすると同じ条件の正社員には月額5,000円を支給することになっていた。雇用契約の期間の定めの有無によって、通勤に要する費用が異なることはない。したがって、契約社員と正社員で通勤手当の支給額が異なるという労働条件の相違は、不合理と言える。
  2. 住宅に要する費用を補助するために、21歳以下の正社員には月額5,000円、22歳以上の正社員には月額2万円の住宅手当を支給していた。契約社員は転勤が予定されていないのに対して、正社員は転勤が予定されているため、住宅に要する費用が契約社員より高額になりやすい。したがって、正社員に住宅手当を支給する一方で、契約社員に支給しないという労働条件の相違は、不合理とは言えない。

ハマキョウレックス事件 解説

労働契約法の第20条に違反するかどうかは、業務の内容、責任の程度、配置の変更の範囲、その他の事情を考慮して、手当ごとの性質を明らかにして、契約社員と正社員の間に相違のあることが不合理かどうか検討して、判断しています。

この裁判では住宅手当を除いて、大半の手当の取扱いを不合理と判断して、会社に対して諸手当の差額を支払うよう命じました。

同じような業務を行っているにもかかわらず、雇用形態(正社員、契約社員、パートタイマー等)によって、手当の構成や支給額に相違がある会社にとっては他人事ではありません。

パートタイム労働法にも同じ趣旨の規定がありますし、同一労働同一賃金の政策が進められますので、「契約社員だけ」に限定した話ではありません。正社員以外の者(非正規雇用)全般に言えることです。

会社が支給している手当ごとの性質、支給している目的を明確にして、支給対象者が目的と合致しているか、支給額に相違がある場合は均衡が取れているか、納得できる説明ができるか、確認する必要があります。問題がありそうな場合は、次の3つの対応方法が考えられます。

1.正社員に合わせて追加支給する

正社員と正社員以外の間に不合理な格差がある場合は、正社員以外の者にも正社員の水準に合わせて諸手当を追加して支給するのが一番簡単な方法です。しかし、賃金総額が膨れ上がりますので、できれば避けたい方法と思います。

2.賃金総額が変わらないよう調整する

正社員と正社員以外の間に不合理な格差がある場合に、賃金総額を増やせないとすると、正社員の賃金を引き下げて、正社員以外の賃金を引き上げる方法を取らざるを得ません。

現に、日本郵政では格差を是正するために、正社員に支給していた住居手当を廃止して、正社員以外に支給する手当を新設することを決定しています。

なお、この場合は、就業規則の不利益変更に該当しますので、基本的には従業員の同意を得て、数年間は緩和措置を設けたりして、慎重に進める必要があります。

3.担当業務を見直す

最後は、雇用形態ごとの担当業務を見直す方法です。会社で行っている全ての業務を洗い出して、正社員やパートタイマーといった雇用形態ごとに、できるだけ重複しないように、担当する業務を改めて割り振ります。

職務の内容等が同じなら同じ処遇にすることが求められますが、仮に、職務の内容等が2分の1なら処遇も2分の1で構いません。均等ではなく、均衡(バランス)が取れていることが求められます。

また、支給している目的が曖昧な手当はトラブルの原因になりますので、統廃合するべきです。これからは「正社員だから」という説明は通用しません。突き詰めて考えていくと、基本給と賞与に集約していくのが合理的なように思います。

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