大阪医科大学事件

大阪医科大学事件 事件の経緯

大学と有期労働契約を締結して、アルバイトとして勤務していました。その後、契約期間を1年間とする有期労働契約を3回更新して、退職しました。大学には事務系の職員として、次の者が存在していました。

正職員無期労働契約、月給制
契約職員有期労働契約、月給制
アルバイト有期労働契約、時給制

正職員の業務内容は、定型的で簡便でない業務が大半を占め、中には法人全体に影響を及ぼすような重要な施策もあり、業務に伴う責任は大きいものでした。また、正職員就業規則には出向や配置転換を命じることが規定されていて、実際に正職員に対して人材の育成や活用を目的とした人事異動が行われていました。

一方、アルバイトの雇用期間は1年以内とし、更新する場合でも上限は5年と定められていて、業務内容は定型的で簡便な作業が中心でした。また、アルバイト就業規則にも他部門に異動を命じることが規定されていましたが、実際の人事異動は例外的で個別の事情によるものに限られていました。

大学には、アルバイトから契約職員、契約職員から正職員への登用制度がありました。

アルバイトの賃金の平均月額は約15万円、同時期に新規採用された正職員の賃金(基本給)の月額は約19万円で、2割程度の相違がありました。また、正職員には基本給の4.6ヶ月分の賞与が1年間に支給されていて、賞与が支給されないアルバイトの年収は正職員の年収の55%程度の水準でした。なお、契約職員には正職員の約80%の賞与が支給されていました。

また、正職員が私傷病で欠勤した場合は、6ヶ月は賃金の全額が支払われ、その後は休職給として賃金の2割が支払われました。一方、アルバイトには欠勤中の賃金は支払われませんでした。

これに対してアルバイトが、正職員との間で、賞与、私傷病による欠勤中の賃金に相違があったことは、労働契約法の第20条に違反すると主張して、賞与等の支払いを求めて、大学を提訴しました。

大阪医科大学事件 判決の概要

労働契約法第20条は、期間の定めの有無によって労働条件が相違する場合に、職務の内容等を考慮して、不合理な相違を設けることを禁止した規定である。労働条件の相違が賞与であったとしても、同条の不合理な相違に該当する場合がある。

ただし、その企業における賞与の性質や支給する目的を踏まえて、同条所定の諸事情を考慮した上で、労働条件の相違が不合理であるか否かを判断することになる。

正職員の基本給は、職務遂行能力の向上に応じた職能給の性格がある。そして、賞与は1年につき基本給の4.6ヶ月分が基準で、支給実績を見ると大学の業績に連動するものではなく、算定期間における賃金の後払い、功労報償、将来の労働意欲の向上等の趣旨があったと認められる。

また、正職員は業務の難易度や責任の程度が高く、人材の育成や活用を目的とした人事異動が行われていた。このような正職員の賃金体系、求められる職務遂行能力、責任の程度等に照らすと、正職員としての職務を遂行し得る人材の確保や定着を図ることを目的として、大学は正職員に対して賞与を支給していたと考えられる。

そして、アルバイトの業務は相当に軽易であるのに対して、正職員は学内の英文学術誌の編集事務、病理解剖に関する遺族への対応、部門間の連携を要する業務、毒劇物の管理業務等にも従事する必要があり、両者の職務の内容(業務の内容及び責任の程度)に一定の相違があった。

また、正職員については、正職員就業規則に基づいて人事異動を命じていたのに対して、アルバイトについては、原則として配置転換を命じたことはなく、人事異動は例外的で個別的な事情により行われていた。両者の配置の変更の範囲についても、一定の相違があった。

また、アルバイトについては、契約職員及び正職員へ段階的な登用制度が設けられていた。これについては、労働契約法第20条の「その他の事情」として考慮するのが相当である。

賞与の性質や支給する目的を踏まえて、正職員とアルバイトの職務の内容等を考慮すると、正職員に支給する賞与は基本給の4.6ヶ月分で、そこに賃金の後払いや功労報償の趣旨が含まれること、正職員の約80%に相当する賞与が契約職員に支給されていたこと、アルバイトの年収が新規採用された正職員の年収と比較して55%程度の水準に留まること、を汲み取ったとしても、不合理とは言えない。

以上により、正職員に賞与を支給する一方で、アルバイトに支給しないという労働条件の相違は、労働契約法第20条の不合理には該当しない。

次に、大学が私傷病により労務を提供できない正職員に対して、賃金(6ヶ月間)及び休職給(賃金の2割)を支給するのは、正職員の生活保障を図ると共に、その雇用を維持・確保するためと考えられる。

正職員とアルバイトの職務の内容及び変更の範囲を見ると、正職員は病理解剖に関する遺族への対応や部門間の連携を要する業務等を行い、人事異動を命じられる可能性がある等、正職員とアルバイトには一定の相違があった。

更に、試験により、アルバイトから契約職員及び正職員への登用制度が設けられていた。

このような事情に加えて、アルバイトの契約期間は1年以内で、更新される場合があるけれども、長期雇用を前提としていないことから、アルバイトに雇用の維持・確保を目的とした制度を適用することは妥当とは言えない。また、アルバイトの在籍期間は3年余りで、有期労働契約を更新して契約期間が継続する状況にあったという事情も見当たらない。

以上により、正職員に私傷病による欠勤中の賃金を支給する一方で、アルバイトに支給しないという労働条件の相違は、労働契約法第20条の不合理には該当しない。

大阪医科大学事件 解説

同一労働同一賃金に関する最高裁判決で、賞与が争点になったケースです。高裁ではアルバイトにも正職員の60%の賞与を支払うよう命じたのですが、最高裁はこれを覆して、支払わなくても良いと判決を下しました。あくまでもこの事件に関する判断ですので、他の企業で事情が異なれば、違う結論になる可能性があります。

そして、判決では、正職員として職務を遂行し得る人材の確保や定着を図ることを目的として、賞与を支払っていることを認めました。これは、多くの企業にも当てはまるように思います。その上で、次の事情を評価しました。

  1. 業務の内容及び責任の程度が違うこと
  2. 配置の変更の範囲が違うこと
  3. 正職員への登用制度があること
  4. アルバイトの雇用期間の上限が5年であること

パートタイマーやアルバイトに賞与を支払っていない企業は、検討してください。各要素をクリアできれば、不支給が認められやすく、同一労働同一賃金に関するトラブルが生じにくくなります。

なお、労働契約法の第20条は削除されて、現在は同じ趣旨の規定が「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」の第8条に統合されました。

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