新宿郵便局事件

新宿郵便局事件 事件の経緯

一般職の国家公務員として採用されて、郵便局の集配課で勤務していた条件付採用期間中(一般企業の試用期間中)の職員について、

といった事務処理上のミスを繰り返しました。また、

このような事実があったことから、郵便局は国家公務員法に基づいて、職員を戒告処分としました。その後(採用して約6ヶ月後に)、郵便局は人事院規則基づいて、職員を免職処分(解雇)しました。

これに対して職員が、免職処分(解雇)は無効であると主張して、郵便局を提訴しました。

新宿郵便局事件 判決の概要

原審は、書留郵便物の配達に関して、職員は事務処理上のミスを繰り返したが、次のような事情を考慮して、免職処分は恣意的で厳し過ぎて裁量権を濫用するものであるという判断を示した。

しかし、書留郵便の制度は、確実に配達するために、書留郵便物の引受けから配達に至るまでを記録して、配達の途中で紛失したり、毀損したりした場合は、損害を賠償するものである。郵便制度の中でも確実な配達が保障されていて、国民の信頼が厚いことは言うまでもない。

このような書留郵便の趣旨や目的に照らし合わせると、配達の出発前に書留郵便物の数を確認して、帰着後に配達証や持ち帰った郵便物の数を確認することは、配達事故を防止するために最も重要で基本的な作業である。

また、書留郵便物を配達先に受け渡したことを確認する手段として、配達証に受取人の受領印をもらうことが重要で不可欠な手続であることも明らかである。

これは職員も認識していたことで、単純かつ基本的な作業であって、配達に出発する前に郵便物の受渡しが複数回行われることや配達郵便物の量の多いことがミスの原因であるとは考えられない。

職員にその意思があれば容易に実行できる作業で、これらの事務処理に関するミスは職員として通常要求される注意力があれば容易に回避できるものである。

したがって、職員が事務処理上のミスを繰り返したことは、職員の職務に対する自覚、意欲、責任感等の欠如に起因するとした郵便局の判断には合理性があると認められる。

職場離脱については、職員が退出後に電話で早退の連絡をしたからといって、無許可の職場離脱であることには変わらない。その直前の上司の注意が多少厳し過ぎると感じられたとしても、職場離脱が許されることにはならない。

職場離脱を免職処分の理由の1つとしていることには、合理性があると認められる。

また、国家公務員法第82条の戒告等の懲戒処分は、秩序を維持するという観点から、職員にその個々の義務違反に対する責任を問うものである。

それに対して、人事院規則11−4第9条の条件付採用期間中の職員に対する免職処分は、採用時の試験や選考の結果だけでは職務を遂行する能力を実証することは難しいから、採用した職員の中に適格性を欠く者がいる場合は、これを排除して職員の採用を能力の実証に基づいて行うという成績主義の原則を実現しようとする観点から、引き続き任用することが適当でないと認められる職員に対して行われるものである。

この2つの処分の性質は本質的に異なるものであるから、条件付採用期間中の職員が違反行為をしたときは、郵便局は職員に対して、国家公務員法第82条の懲戒処分をすると同時に、勤務実績を考慮して引き続き任用することが適当でないと認めたときは、人事院規則11−4第9条に基づいて免職処分をすることができる。

また、必要に応じて、免職処分を保留して、とりあえず懲戒処分をして、勤務実績を考慮した上で適格性の有無を判断することもできる。

したがって、職員の違反行為に対して、郵便局が、免職処分をしないで、懲戒処分をしたからといって、郵便局が、それまでの事情を考慮して、職員としての適格性を肯定したことにはならない。

更に、免職処分を予告された者が受ける精神的な動揺を無視できないとしても、予告後の事実が、それ以前の様々な事実と併せて考えると軽視できるものではない。

以上により、事務処理上のミス、職場離脱、苦情の内容、上司に対する反抗的な態度等を総合的に勘案すると、職員には自己の職務に対する自覚、意欲、責任感や服務規律に対する認識が欠けているものとして、郵便局が人事院規則11−4第9条に基づいてした免職処分が、裁量権の範囲を超えて、これを濫用した違法なものであると認めることはできない。

新宿郵便局事件 解説

郵便局の職員として採用された者が、試用期間中(条件付採用期間中)に、業務上のミスや違反行為を繰り返したため、郵便局が懲戒処分をして、その後、解雇(免職処分)をしました。解雇(免職処分)が有効か無効か争われたケースです。

東京地裁では解雇は有効、東京高裁では解雇は無効と判断が分かれて、最高裁では解雇は有効という結論になりました。

採用して6ヶ月の間に、これだけの業務上のミスや違反行為を繰り返したにもかかわらず、本人は反省していないようですので、改善する見込みはありません。そのような状況で、解雇が無効になるという判断は信じられないです。

郵便局は、職員の違反行為を理由として懲戒処分(戒告処分)をして、その後、違反行為や業務上のミス等を総合的に考慮して、職員には適格性がないと判断して解雇しました。

東京高裁では、懲戒処分を決定する際に、解雇を選択することも考えられたけれども、懲戒処分を選択したのであるから、郵便局としては適格性はあると判断したのではないかという主張です。

懲戒処分は、従業員が違反行為をしたときに、職場の規律を維持するために、制裁として行うものです。一方、試用期間中の解雇は、その期間中の勤務実績を総合的に考慮して、従業員としての適格性がないと認めた場合に行うものです。

最高裁では、この2つの性質は本質的に異なるものであるから、懲戒処分の理由とした事実であっても、それを適格性の有無を判断する要素とすることは可能であると示しました。つまり、懲戒処分をした後に、同じ事実を理由の1つとして、解雇することも許されるということです。

ただし、戒告処分をした後に、同じ事実を理由として、懲戒解雇をすることは許されません。両方とも同じ懲戒処分(同じ性質)ですので、「二重処罰の禁止」という原則に反することになります。

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