高知放送事件

高知放送事件 事件の経緯

アナウンサーとして勤務していた従業員が、ファックス担当者と宿直勤務に従事したのですが、仮眠して寝過ごしたため、早朝に予定していたラジオニュースを放送できませんでした。

その2週間後に、別のファックス担当者と宿直勤務に従事したのですが、再び寝過ごして、ラジオニュースを放送できませんでした。

事故について、従業員(アナウンサー)は部長から報告書の提出を求められて、事実と異なる報告書を提出しました。

会社は、従業員の行為は就業規則に定める懲戒解雇の事由に該当すると判断したのですが、再就職など将来を考慮して普通解雇としました。

なお、会社の就業規則には、普通解雇について、次の規定が設けられていました。

「従業員が次の各号のいずれかに該当するときは、30日前に予告して解雇する。ただし、会社が必要とするときは平均賃金の30日分を支給して即時解雇する。ただし、労働基準法の解雇制限該当者はこの限りでない。

  1. 精神又は身体の障害により業務に耐えられないとき
  2. 天災事変その他やむを得ない事由のため事業の継続が不可能となったとき
  3. その他、前各号に準ずる程度のやむを得ない事由があるとき」

従業員は会社による解雇権の濫用を主張して、従業員としての地位の確認を求めて、会社を提訴しました。

高知放送事件 判決の概要

就業規則の懲戒事由に該当する事実がある場合に、本人の再就職など将来を考慮して、懲戒解雇としないで普通解雇とすることは、懲戒の目的があるとしても許される。

そして、普通解雇として解雇する場合は、普通解雇の要件を備えていれば十分で、懲戒解雇の要件は求められない。

本件の従業員の行為は、就業規則の普通解雇の事由に該当する。しかし、普通解雇の事由に該当したとしても、具体的な事情に基づいて、解雇が著しく不合理で、社会通念上相当と認められない場合は、解雇権の濫用として解雇は無効になる。

従業員の起こした事故は、定時放送を使命とする会社の対外的信用を著しく失墜するものである。また、寝過ごして、2週間内に2度も同様の事故を起こしており、従業員はアナウンサーとしての責任感が欠けている。

その一方で、次のような事実が認められる。

このような事情を総合的に考慮すると、従業員を解雇することは苛酷で、合理性を欠き、社会的に相当なものとして是認することはできない。本件解雇の意思表示は、解雇権の濫用として無効である。

高知放送事件 解説

労働契約法第16条で、「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と規定されています。

この高知放送事件は、解雇の効力について争われた裁判例で、労働契約法が制定される前のものですが、この規定と同じ枠組みで判決が下されています。つまり、

  1. 客観的に合理的な理由があるかどうか
  2. 社会通念上相当であるかどうか

という2点の検討が行われています。

従業員の行為は就業規則の普通解雇の事由に該当する(客観的に合理的な理由がある)けれども、諸事情を考慮すると、解雇するには苛酷である(社会通念上相当ではない)として、解雇は無効と判断しました。

解雇が有効と認められるためには、一方だけでは不十分で、2点ともクリアする必要があります。

この裁判で認めなかった「社会通念上相当であるかどうか」というのは、分かりやすく言い換えると、解雇されても仕方がないと世間一般的に思われるかどうかです。

例えば、新入社員が1000万円を横領したケースだったら、大多数の人は「解雇されても仕方がない」と思うでしょう。

しかし、1万円だったら?10万円だったら?能力不足を理由とする場合は?など、判断が難しいケースの方が多いです。程度の問題になりますので、人によって受け取り方が異なります。解雇をしようとするときは、事前に第三者の意見を聴くことも大切です。

また、同じ行為であっても、個々の会社の事情や経緯が考慮されますので、解雇が有効と認められる具体的な(共通の)基準はありません。事前に解雇が有効かどうかを予測することは困難です。

予測が難しいケースでは解雇をする前に、事故を防止する措置を講じたり、教育や指導を行ったり、懲戒処分を行ったり、会社として考えられることは実行しておくべきです。

また、この裁判では、就業規則に規定している懲戒事由に該当することを理由として、普通解雇を行えることを示しました。

その場合は、懲戒解雇の要件を満たしていなくても、普通解雇の要件を満たしていれば、解雇は有効と認められます。なお、懲戒解雇の場合は退職金を不支給としたり、従業員が受ける不利益が大きいので、通常は普通解雇より認められるハードルが高くなります。

なお、この裁判では、就業規則の普通解雇の事由として定めていた、「その他、前各号に準ずる程度のやむを得ない事由があるとき」に該当すると判断しました。就業規則の解雇事由や懲戒事由に、このような包括的な規定を設けておくことも重要です。