学校法人松蔭学園事件

学校法人松蔭学園事件 事件の経緯

家庭科の教員が生徒の成績評価を間違っていたことが発覚しました。学校は就業規則に基づいて、職務の適格性が欠けることを理由として、その教員を解雇しました。

これに対して教員が、解雇権を濫用するもので、解雇は無効であると主張して、雇用関係が存続することの確認を求めて、学校を提訴しました。

なお、その教員は、学校に採用された後、労働組合を結成して、労働組合の委員長に就任していました。

学校法人松蔭学園事件 判決の概要

原審の判断は、正当として是認することができる。

東京高裁(原審)

就業規則の解雇事由として定められている「職務に適格性を欠くとき」とは、教職員の容易に矯正しがたい持続性のある能力、素質、性格等に起因して、その職務の遂行に障害があり、又は障害が生じる恐れが大きい場合をいうものと考えられる。

生徒の成績評価は、教員の職務の中でも極めて重要な職務であり、正確な成績評価をする能力は、教員という職務に携わる者にとって欠かせない。また、評価を受ける生徒にとっても重大で、成績評価の誤りは、生徒の学校内における成績順位の問題だけではなく、進学や就職の推薦の問題にも影響するものである。

したがって、その教員の成績評価の誤りが、偏見や独断に基づくもので容易に改善できない場合や恒常的な注意力の欠如に基づくもので容易に矯正できない場合は、教員としての職務の適格性に欠けると認められる。

解雇に至った経緯によると、成績評価の問題が発生した後の学校の対応は教員を処分することのみを考えて、教員が求めていた話合いや釈明の機会を与えないまま解雇に至ったもので、今後の指導による教員の成績評価の改善の可能性など適格性を検討した形跡は認められない。

むしろ、成績評価の問題を契機として、従来から対立関係にあった労働組合の委員長である教員を学校から排除することに主眼を置いて、成績評価の問題に対応してきたと言わざるを得ない。

これらの事情によれば、職務の適格性に問題があるとしても、就業規則の「職務に適格性を欠くとき」に該当するとは認められない。本件解雇は解雇権を濫用したものとして、無効である。

学校法人松蔭学園事件 解説

家庭科の教員が生徒の成績評価を間違ったことから、職務の適格性が欠けることを理由として、学校が解雇をして、裁判になったケースです。

職務の適格性が欠ける場合は解雇が認められるとしても、適格性の有無は程度の問題ですので、特に当事者にとっては判断が難しいです。裁判例で見てみましょう。

学校において、生徒の成績評価は、教員の職務の中でも極めて重要な職務で、生徒にとっても進学や就職に影響する重大なものです。

生徒の成績評価を正確に行うことは教員に欠かせない能力であるとしても、その成績評価の間違いが、偏見や独断に基づくもので容易に改善できない場合や恒常的な注意力の欠如に基づくもので容易に矯正できない場合でなければ、適格性を欠くとは認められないことが、裁判で示されました。

成績評価の間違いが発覚した後に、学校はその教員に対して、指導を行って改善や矯正できるかどうかを検討しないまま解雇したため、解雇権を濫用したものとして、解雇は認められませんでした。

また、この教員は学校と対立していた労働組合の委員長で、学校から排除しようとしていたこと、教員が求めていた話合いを行わず、教員に釈明の機会を与えていなかったことも、解雇を無効とする方向に働きました。

会社において、業務上、重大なミスが発覚したとしても、ミスの程度にもよりますが、通常は1回だけでは解雇は認められにくいです。ミスを再発しないように、会社はその従業員に対して、指導や教育を行うことが重要です。同時に、ミスに関して、本人に弁明の機会を与えることも欠かせません。

その上で、重大なミスが能力、素質、性格等に基づくもので、ミスを繰り返して業務に支障が生じたり、本人に指導や教育を受け入れる意思がなく、改善の見込みがないような場合は、職務の適格性を欠くと認められます。それで初めて、解雇は有効と判断されます。

解雇を前提にすると、会社は対応を間違えます。解雇を回避するためにはどうすれば良いか検討して、できることを実施して、しばらく様子を見て、改善の見込みがなく、改めて雇用を継続することが困難であると判断できる場合に、解雇が可能になります。

そもそも、能力、素質、性格等に基づくミスによって、解雇をせざるを得ない事態が想定される場合は、最初に、採用面接で重点的に確認をしたり、筆記試験を実施したりするべきでしょう。

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