1年変形の割増賃金の計算方法
1年変形の割増賃金の計算方法
- 1年単位の変形労働時間制を導入している場合に、割増賃金(時間外勤務手当)の計算を適正に行っていますか?
- 労働基準法上、1日8時間又は1週40時間を超えた時間が割増賃金の対象となるのが原則ですが、1年単位の変形労働時間制を採用する場合は特別な計算方法になります。
【解説】
変形労働時間制を採用する場合に、割増賃金(時間外勤務手当)の支払いについて、労働基準法で定められている最低基準をクリアしようとすると、次のように5通りの計算方法があって、それぞれ計算しないといけません。
- 所定労働時間が8時間超(例:9時間)の日は、所定労働時間(9時間)を超えた時間
- 所定労働時間が8時間以下(例:7時間)の日は、8時間を超えた時間
(※7時間超8時間以下の労働時間については、100%分の通常の賃金を支払う必要があります。) - 所定労働時間が40時間超(例:44時間)の週は、所定労働時間(44時間)を超えた時間
- 所定労働時間が40時間以下(例:36時間)の週は、40時間を超えた時間
(※36時間超40時間以下の労働時間については、100%分の通常の賃金を支払う必要があります。) - 1年間の法定労働時間の総枠(2,085.71時間)を超えた時間
毎月1.から4.までを計算して、重複している部分は二重にカウントしないよう注意して、合計した時間に対して割増賃金(時間外勤務手当)を支払う義務があります。5.は、変形期間の1年間が終了してから計算します。
毎月このような4通りの計算を従業員ごとに行うのは面倒で、100%分の通常の賃金を支払う部分もありますので、計算間違いが生じやすいです。更に、修正の事務処理等が発生すると作業が停滞します。
従業員ごとに4通りの計算をしている企業は少数で、従業員ごとに1通りの計算で終わらせている企業が一般的です。簡便な計算方法は次のとおりです。
1年単位の変形労働時間制を採用する場合は、1年間を平均して1週40時間以内になるように、出勤日と各日の所定労働時間を設定します。なお、1年間の法定労働時間の総枠(合計時間)は、2,085.71時間になります。
そして、「各日の所定労働時間を超えた時間の合計」に対して、125%の時間外勤務手当(割増賃金)を支払っていれば、労働基準法の規定をクリアします。
同じ時間勤務したとして、「各日の所定労働時間を超えた時間の合計」と「1.から4.までの合計時間」を比較すると、前者の方が大きくなります。労働基準法の最低基準を上回る取扱いですので、問題はありません。
また、通常は、「1ヶ月の実際の労働時間の合計」−「1ヶ月の所定労働時間の合計」に対して、125%の時間外勤務手当(割増賃金)を支払えば問題ありません。この計算方法であれば、事務処理がかなり楽になります。
ただし、1ヶ月の間に、休日の振替、休日労働、遅刻、早退、欠勤等があった場合は、誤差が生じる可能性があります。その場合は、「各日の所定労働時間を超えた時間の合計」を計算して、欠勤控除等の特殊事情を組み込んで調整する必要があります。
1年単位の変形労働時間制を採用している場合は、「5.1年間の法定労働時間の総枠(2,085.71時間)を超えた時間」を変形期間の1年間が終了してから計算することになっています。
ただし、通常は毎月、「1ヶ月の実際の労働時間の合計」−「1ヶ月の所定労働時間の合計」に対して、125%の時間外勤務手当(割増賃金)を支払っていれば、既に支払い済みとなりますので、5.の時間は発生しません。
変形期間の1年間を通して勤務した従業員については、そのとおりですが、変形期間の途中で入職又は退職した従業員で、繁忙期のみ在籍していた場合は、5.の清算をする必要があります。
例えば、繁忙期の所定労働時間を1週44時間として、2ヶ月だけ所定労働時間と同じ勤務をしたとすると、その従業員に対して割増賃金は支払っていないと思います。
在籍していた2ヶ月間を平均すると1週40時間を超えますので、1週につき4時間分の割増賃金(25%分)をさかのぼって支払わないといけません。なお、100%分は所定労働時間に対する賃金として、通常の賃金に含まれています。
一般化すると、「40時間/7日×変形期間内で在籍した暦日」を総枠とみなして、この間の実際の労働時間が総枠を超えたときは、超えた時間に対して割増賃金を支払います。既に支払い済みの部分は重複して支払う必要はありません。
もっと詳しく
- 労働基準法 第32条の4<1年単位の変形労働時間制>【なるほど労働基準法】
- 労働基準法 第37条<残業手当>【なるほど労働基準法】
- 変形労働時間制【労務管理の知恵袋】
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