フォード自動車事件
フォード自動車事件 事件の経緯
会社は人事部長として従業員を中途採用しましたが、約10ヶ月後に、就業規則の解雇事由の「業務の履行又は能率が極めて悪く、引き続き勤務が不適当と認められる場合」に該当することを理由にして、解雇しました。
これに対して従業員が、人事部長としての地位の確認及び賃金の支払を求めて、会社を提訴しました。
フォード自動車事件 判決の概要
従業員は、単に雇用契約関係の存在の確認を求めるのではなく、人事部長としての地位の確認を求めていることから、人事部長という地位を特定した雇用契約であることを自ら認めているものと考えられる。
また、会社の一般従業員として入社後に昇進して人事部長になったのではなく、人事部長として中途採用されたこと等を総合すると、人事部長という地位を特定した雇用契約であると考えられる。
特段の能力を期待して、人事部長という職務上の地位を特定した雇用契約という特殊性に照らして、従業員の執務状況を検討すると、
- 課せられた仕事を部下に委譲する方法ではなく、自ら仕事を担当する方法で執務することを期待されていたにもかかわらず、6ヶ月が経過しても改善されなかった
- 人員整理の余剰人員の選定を職務内容の1つとしていたが、職務を著しく怠っていた
- 承認が必要な事項を留保していることを認識しながら、部下の助言を無視して違反行為をした
会社が期待する人事部長として、このような従業員の執務態度は、就業規則で定める「業務の履行又は能率が極めて悪く、引き続き勤務が不適当と認められる場合」、「雇用を終結しなければならないやむを得ない業務上の事情がある場合」に該当すると考えられる。
人事部長という地位を特定した雇用契約であることから、会社としては従業員を他の職種又は人事部長より下位の職位に配置転換して雇用を維持する義務はない。
また、業務の履行又は能率が極めて悪いと言えるかどうかの判断も、一般の従業員として業務の履行又は能率が極めて悪いかどうかを判断するのではなく、人事部長という地位に要求された業務の履行又は能率が極めて悪いかどうかという基準で検討すれば足りる。
フォード自動車事件 解説
人事部長として中途採用した従業員を能力不足が原因で解雇して、裁判になったケースです。一般従業員と比べて、解雇の正当性が認められやすいのかどうかが争点になりました。
解雇は最終手段として、解雇を回避する努力をすることが義務付けられていますので、雇用を維持するために、通常は、配置転換や転勤を検討することが求められます。配置転換や転勤を検討していないと、解雇は無効と判断されます。
しかし、この裁判では、人事部長という地位を特定した雇用契約であることから、配置転換や転勤は想定していないものとして、配置転換や転勤を検討する義務はないことが示されました。
また、能力不足・不適格の程度についても、一般従業員を解雇するときは、その前に研修や指導を行って、その向上を図ることが求められます。会社が研修や指導を怠っていると、能力の向上の可能性があったにもかかわらず、解雇したものとして、解雇は無効と判断されます。
一方、人事部長という地位を特定した雇用した者については、下位の職位に配置転換をすることができませんので、人事部長(相応の賃金を支払っている者)として、能力不足・不適格と認められる場合は、解雇は有効となることが示されました。
地位を特定して、相応の賃金を支払って雇用した従業員については、一般従業員より解雇の正当性が認められやすいです。また、解雇をする前に、会社が研修や教育を実施することは求められません。ただし、改善するべき事項があれば指導をして、違反行為をしたときは注意をする必要があります。
結果的に、この裁判では、人事部長の解雇は有効と判断しました。
【関連する裁判例】

