自己都合退職から会社都合退職(解雇)の切替え要求
自己都合退職から会社都合退職(解雇)の切替え要求
退職を申し出た従業員が、「会社都合退職(解雇扱い)にして欲しい」と言ってきました。従業員の要求に応じても問題はないでしょうか?
問題がありますので、そのような要求には応じるべきではありません。
雇用保険の失業給付について、自己都合退職と比べて、会社都合退職(解雇)の方が、次のように、従業員にとって有利に取り扱われます。
- 自己都合退職の場合は、原則として、2ヶ月の給付制限期間が設定されていて、それ以降でないと失業給付が支給されません。一方、会社都合退職(解雇)の場合は、給付制限期間はありません。
- 自己都合退職の場合は、雇用保険の加入期間に応じて、90日分から150日分の範囲内で支給されます。一方、会社都合退職(解雇)の場合は、雇用保険の加入期間と年齢に応じて、90日分から330日分の範囲内で支給されます。
自己都合退職の場合は、自分で退職日を決定しますので、退職後の生活の準備ができますが、会社都合退職(解雇)の場合は、普通は準備をする余裕がありません。
そのため、解雇された者は保護をする必要性が高いと考えられていて、失業給付が有利に取り扱われます。ただし、横領等の重大な責任、理由があって解雇された者は除きます。
「従業員にメリットがあるのであれば協力しても良い」と考える経営者がいるかもしれません。しかし、「会社都合退職(解雇扱い)にして欲しい」という従業員の要求に応じると、次のようなリスクがあります。
- 将来、不当解雇として訴えられる可能性がゼロではありません。解雇をする正当な理由がありませんので、解雇は無効と判断されて、その間の賃金の支払を請求される可能性があります。
- 仮に、今回要求してきた従業員は信頼できるとしても、次に同じ要求をする従業員が現れたときに、応じても・応じなくても、トラブルになる可能性があります。
- ハローワークに対して、事実と異なる虚偽の届出をすることになりますので、会社は不正受給(詐欺)の共犯になってしまいます。
- 労働基準法によって、解雇する場合は、解雇予告の手続きが必要です。30日以上前に解雇の予告をするか、30日分以上の平均賃金(解雇予告手当)を支払わないといけません。本人が不要と言っても、労働基準法は強制的に適用されますので、解雇予告の手続きを怠っていると、労働基準法違反になります。
- ハローワークで解雇の事実が記録されますので、助成金の種類によっては、受給が不可能になります。
- 会社が虚偽の届出や法律違反をしていると、従業員が会社に不信感を持って、信頼関係を損ねる恐れがあります。
以上により、「会社都合退職(解雇扱い)にして欲しい」という従業員の要求には応じるべきではありません。「事実と異なる処理はできない」「解雇扱いとすることはできない」と伝えてください。
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