飲酒運転を理由とする懲戒解雇

飲酒運転を理由とする懲戒解雇

従業員が飲酒運転をしたときは、休日であっても、懲戒解雇とすることを考えています。可能でしょうか?

人身事故を起こした場合は別ですが、飲酒運転が発覚しただけでは、懲戒解雇は認められない可能性が高いです。

懲戒については、労働契約法(第15条)によって、次のように規定されています。

懲戒については、就業規則を作成して、軽い処分から、譴責(戒告)、減給、出勤停止、諭旨退職、懲戒解雇、と定めている会社が一般的です。

また、どのような言動を懲戒の対象にするのか、就業規則に懲戒の事由を具体的に列挙する必要があります。懲戒の事由として当てはまるものがなければ、懲戒はできません。

そして、例えば、遅刻を繰り返したときは譴責(始末書の提出)、横領をしたときは懲戒解雇のように、違反行為の内容と懲戒処分の重さが釣り合っている必要があります。

一般常識で考えて、違反行為に対して懲戒処分が重過ぎると、「社会通念上相当であると認められない場合」に該当して、懲戒は無効になります。

また、解雇については、労働契約法(第16条)によって、次のように規定されています。

「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用した」ことになる部分が共通しています。

平たく言うと、一般常識で考えて、解雇されても仕方がないという理由がなければ、解雇は無効になります。

懲戒解雇をする場合は、労働契約法の懲戒と解雇の両方の規定をクリアする必要があります。

例えば、従業員が横領をしたとすると、重大な犯罪行為である、会社に損害を与えた、信頼関係を破壊した、繰り返す可能性がある、職場の秩序を維持できない、このような事情を考慮すると、計画性の有無、横領の手段や方法、金額の大きさ等にもよりますが、懲戒解雇は有効と認められる可能性が高いです。

そこで、従業員が飲酒運転をした場合は、どうでしょうか。

休日や労働時間外は従業員のプライベートの時間ですので、会社が従業員の行動を制限することはできません。原則的には、従業員のプライベートの行動に対して、会社が懲戒処分を行うことは不可能です。

しかし、会社の業務に支障が生じた場合は別です。例えば、従業員が飲酒運転で人身事故を起こして、会社名が報道された結果、顧客が離れて売上げが減少した場合は、会社の信用を失墜する行為として、懲戒処分が認められます。

どの種類の懲戒処分が適切かは、会社の業種、会社に生じた損害の程度、飲酒運転をした者の役職、被害の程度、事故の経緯、事故後の対応、過去の処分歴など、個々の事情によります。

会社の業種については、自動車の運転を業務とするタクシー業や運送業の従業員による飲酒運転は、社会的な影響が大きく、顧客離れに繋がりやすいです。また、運転業務に従事することを条件にして採用した従業員が、運転免許証の停止や取消しの処分を受けると、業務に支障が生じますので、厳しい懲戒処分でも認められやすいです。

労働契約法で規定されている“社会通念”は、時代によって変化して、近年は飲酒運転に対して厳しい意見が増えています。

自動車運転処罰法の危険運転致死傷罪や過失運転致傷罪が適用されて、懲役刑の処分が下った場合は、懲戒解雇が認められる可能性が高いです。しかし、被害者がいない状況では、今でも懲戒解雇は認められにくいです。

ただし、労働時間中の飲酒運転については、会社の指揮命令下にある時間ですので、交通事故を起こしたり、会社名が報道されたりしなくても、懲戒処分を行うことは可能です。放置していると、会社が黙認していると受け取られますので、何らかの処分は行うべきです。