年次有給休暇と深夜勤務手当の支払い

年次有給休暇と深夜勤務手当の支払い

シフト制で勤務をしていて、深夜の時間帯にシフトを入れていた日に、従業員が年次有給休暇を取得したときは、深夜労働として、0.25倍の割増賃金を支払う必要がありますか?

実働時間をベースにして考えると、割増賃金(深夜勤務手当)を支払う必要はありません。通常の1.00倍の賃金を支払っていれば大丈夫です。

労働基準法によって、22時から翌日5時までの深夜の時間帯に勤務をしたときは、0.25倍の割増賃金(深夜勤務手当)を支払うことが義務付けられます。

例えば、時間給が1,000円で、20時から24時までシフトが入っていたとします。

実際に予定どおり勤務をしたとすると、4時間×1,000円が基本となる賃金で、22時から24時までの2時間が深夜労働の対象になりますので、500円(2時間×1,000円×0.25)の深夜勤務手当を加算して支払うことになります。

同じ設定で、年次有給休暇を取得したときに、4,000円の支払いで足りるのか、4,500円を支払わないといけないのか、2通りの方法が考えられます。

ところで、労働基準法の割増賃金の規定は、時間外労働・休日労働・深夜労働を抑制して、過重労働による健康障害を防止すること、及び、負担の伴う勤務をした従業員に対して補償することを目的として設けられたものです。

規定の趣旨に照らし合わせて考えると、実働時間に基づいて処理をする方法が合理的です。したがって、深夜勤務手当の支払いは不要で、4,000円を支払えば問題はないと考えられます。

しかし、通達によって、年次有給休暇を取得した日に支払うことになっている「所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金」には、「臨時に支払われた賃金、割増賃金の如く所定時間外の労働に対して支払われる賃金等は算入されない」と明示されています。

この「割増賃金の如く所定時間外の労働」に深夜労働を含むのかどうか、専門家の間でも解釈が分かれていて、深夜勤務手当を含めて(上の例で言うと4,500円を)支払わなければならないとする見解もあります。

統一的な見解がなかったのですが、日本エイ・ティー・エム事件において、次のように判示されました。

「時間外労働及び深夜労働に対して割増賃金を支払う趣旨は、時間外労働が通常の労働時間に付加された特別の労働であり、深夜労働も時間帯の点で特別の負担を伴う労働であることから、それらの負担に対する一定額の補償をすることにあると解される。年次有給休暇を取得した場合、実際にはそのような負担は発生していないことからすれば、年次有給休暇を取得した場合に、所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金としては、割増賃金は含まれず、所定労働時間分の基本賃金が支払われれば足りると解される。」

要するに、深夜労働に対する割増賃金は、深夜労働という負担を伴う労働に対する補償と考えられるけれども、年次有給休暇を取得したときは、実際にはそのような負担は生じていないので、割増賃金は含まないで、所定労働時間に対する賃金を支払えば足りるということです。

東京地裁の判決ですが、深夜勤務手当の支払いは不要という考えが一歩前進したように思います。

なお、年次有給休暇を取得した日に対して、就業規則で、「所定労働時間労働した場合に支払われる通常の賃金」ではなく、「平均賃金」又は「健康保険の標準報酬日額」を支払うこととしている場合は、シフトの時間帯に関係なく一定額で支払いますので、このような問題は生じません。