海外旅行中の治療費の負担(海外療養費)

海外旅行中の治療費の負担(海外療養費)

従業員がプライベートで海外旅行をしている間にケガをして、海外の医療機関で治療を受けた場合は、健康保険証は使えますか?

海外の医療機関で健康保険証は使えませんが、「海外療養費」として健康保険から給付を受けることができます。

健康保険に加入している者が、国内でケガをしたり、病気になったりしたときは、医療機関に健康保険証(健康保険被保険者証)又はマイナ保険証を提示すれば、3割負担(7割は現物給付)で治療等を受けられます。

3割負担で治療等を受けるためには、保険医療機関や保険薬局として指定を受けている必要があります。海外でそのような指定を受けている医療機関はありませんので、海外では健康保険証は使えません。

したがって、海外でケガをしたり、病気になったりして、医療機関で治療等を受けたときは、治療費等の全額を支払うことになります。

そのような場合に、健康保険には「海外療養費」という制度があります。海外の医療機関で治療等を受けて、帰国後に協会けんぽ(全国健康保険協会)や健康保険組合に申請をすると、保険診療を行った場合に定められている治療費等の7割が支給されます。

美容整形やインプラントなど、保険診療の対象外の医療行為については、支給されません。また、治療目的で海外に行った場合も、支給されません。

海外療養費を受給するためには、「海外療養費支給申請書」に、次の書類を添付する必要があります。

  1. 診療内容明細書、及びその日本語訳
  2. 領収明細書、及びその日本語訳
  3. 領収書原本、及びその日本語訳
  4. 海外渡航期間が確認できる書類(パスポート、ビザ、航空チケットのいずれかのコピー)
  5. 照会の同意書

海外療養費支給申請書、診療内容明細書、領収明細書、照会の同意書は、こちらのページからダウンロードできます。

海外旅行に行くときは、「診療内容明細書」と「領収明細書」を持参すると、万一のときに、申請が円滑に行えるようになります。帰国後に海外の医療機関に対して、これらの書類の記入を依頼することは骨が折れます。

プライベートの海外旅行に限らず、業務命令で海外に赴任する場合も海外療養費は支給されます。ただし、業務災害と認められて労災保険から給付を受けたときは、健康保険の海外療養費の給付は受けられません。どちらか一方に限られます。

海外療養費として給される額は、保険診療を行った場合に定められている治療費等の7割(現物給付に相当する部分)です。支給額は日本の診療報酬に照らし合わせて計算しますので、実際に海外で支払った額の7割を下回るケースが多いです。

例えば、海外の医療機関で治療を受けて、その費用として現地で20万円を支払って、それと同じ治療に対する診療報酬が国内では10万円で設定されているとします。

この場合は、国内の診療報酬の10万円が基準になりますので、海外療養費は10万円の7割の7万円が支給されます。結果的に、自己負担は13万円(6.5割)になります。

逆に、海外の医療機関で治療を受けて、5万円を支払って、その診療報酬が国内では10万円で設定されているとします。この場合は、海外の医療機関に支払った5万円が基準になって、5万円の7割の3万5千円が海外療養費として支給されます。

なお、海外の医療機関に治療費等を支払ってから、2年以内であれば、海外療養費を請求できます。これを過ぎると時効によって、申請が不可能になります。

健康保険の保険料を負担しているのですから、受給できるものは受給した方が良いと思います。繰り返しになりますが、海外旅行に行くときは、「診療内容明細書」と「領収明細書」を持参するようお勧めいたします。