ダイハツ工業事件

ダイハツ工業事件 事件の経緯

工場で勤務していた従業員がデモに参加したときに、凶器準備集合罪等で逮捕されて、約3週間勾留されました。従業員が拘留されて欠勤している間に、工場の作業が再編されたため、従業員は以前の持ち場がなくなりました。

上司が出勤してきた従業員に対して、帰宅して、翌朝に事情聴取のため労務課へ出頭するよう命じたのですが、従業員は命令に反して以前の持ち場で就労しました。その後日も、従業員は出頭命令を拒否して、以前の持ち場で就労し続けました。

会社は従業員に対して、何らかの処分があるまで自宅待機を命じたのですが、従業員は自宅待機命令を無視して工場に入ろうとしため、これを阻止しようとする警備員と揉み合いになりました。

この行為は就業規則の「正当な理由なしに職務上の指示命令に従わない者」に該当するとして、会社は従業員に対して、20日間の出勤停止処分を言い渡しました。

従業員は、出勤停止処分に反発して、工場に入ろうしたため、再度、警備員に取り押さえられました。この時の揉み合いによって、警備員は腕時計が破損したり、負傷したりしました。就業規則に違反する行為として、会社は従業員に対して、2度目の出勤停止処分を言い渡しました。

会社は2度目の出勤停止の期間が終了する日に従業員を呼び出して、新しい職場が見付かるまで当分の間自宅待機するよう命じて、その期間は賃金を支払うことを約束しました。

その翌日、従業員は工場に入って処分が不当であると訴えて回ったため、警備員が従業員を工場外へ連れ出そうとして揉み合いになり、警備員は負傷しました。その際、危険を避けるため、ベルトコンベアを3分間停止しました。

その後も、従業員が工場に入って、工場外に連れ出そうとする警備員と揉み合いになり、警備員が負傷するという出来事が繰り返されました。

会社は、就業規則の「勤務怠慢又は素行不良で会社の風紀秩序を乱した者」、「故意又は重大な過失により会社に損害を与えた者」、「その他諸規則に違反し、又は前各号に準ずる行為をした者」に該当するとして、従業員に対して、懲戒解雇の処分を下しました。

これに対して従業員は、会社が行った出勤停止及び懲戒解雇は懲戒権を濫用するもので無効であると主張して、従業員として地位の確認を求めて、会社を提訴しました。

ダイハツ工業事件 判決の概要

会社の懲戒権の行使は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と是認できない場合は、権利を濫用したものとして、無効になると考えられる。

出勤停止処分を受けたにもかかわらず、従業員は不当な処分で承服できないと主張して、執拗に反発し、態度を改めようとしなかった。

また、従業員は警備員を負傷させており、2回目の出勤停止処分の対象となった行為は、1回目の出勤停止処分の対象となった一連の行為より悪質なものである。

出勤停止処分は合理的な理由があり、社会通念上相当と是認できるものであり、権利を濫用したものではない。

従業員は自己の立場を訴えて、主張を貫徹するにしても、その具体的な手段方法については企業組織の一員として守るべき限度がある。

懲戒解雇の対象となった行為は、その性質、態様に照らして明らかにこの限度を逸脱するものであり、その動機も身勝手なもので、同情の余地は少ない。

しかも、従業員は欠勤後に出勤してから一貫して反抗的な態度を示し、企業秩序を公然と乱してきた。職場規律に服し、会社の指示命令に従い、企業秩序を遵守するという姿勢を欠いていた。

企業秩序を維持するために、このような従業員を企業内に留め置くことはできない、従業員を企業外に排除する以外にないと、会社が判断したとしてもやむを得ない。

以上により、従業員の行為の性質、態様、結果及び情状並びにこれに対する会社の対応等に照らすと、会社が行った懲戒解雇には、客観的に見て合理的な理由がある。懲戒解雇は社会通念上相当と是認することができ、懲戒権を濫用したものではない。

ダイハツ工業事件 解説

会社が行った懲戒処分(出勤停止と懲戒解雇)の無効を訴えて裁判になったケースです。

職場秩序が乱れると、組織的な企業活動ができません。企業の存続にかかわることですので、職場秩序を維持するために、会社には懲戒をする権利があると考えられています。

しかし、それにも限度があり、懲戒権を濫用した場合は無効になります。つまり、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と是認できない場合は、権利を濫用したものとして無効になります。

要するに、違反行為の程度と懲戒処分の重さ(懲戒解雇、出勤停止、減給、けん責など)が釣り合っていることが第一に重要です。

しかし、判断基準が抽象的ですので、問題が表面化する前に、懲戒処分が有効か無効かを予測することは困難です。懲戒処分に関して問題になる場合は、普通は労使双方に正当と考えられる言い分があります。

実際に、この最高裁判所の前に行われた高等裁判所では、次のような事情を考慮して、懲戒権を濫用したものとして、懲戒処分は無効と判断していました。

特に会社が懲戒解雇を行う場合は、従業員の言い分としてどのようなことが考えられるのか慎重に検討して、それよりも説得力のある合理的な理由を整理しておく必要があります。

また、従業員にそうせざるを得ない事情があったのかもしれませんので、それを確認するために、会社は懲戒処分を行う前に、直接、従業員から詳細に聴き取りをすることも欠かせません。