海遊館セクハラ事件

海遊館セクハラ事件 事件の経緯

男性従業員X1は、会社の資格等級制度規程に基づいて、M0の等級に格付けされ、営業部内のマネージャーとして勤務していました。

男性従業員X2は、M0の等級に格付けされ、営業部内の課長代理として勤務していました。

女性従業員Aは派遣社員として勤務、女性従業員Bは請負社員として勤務していました。

職場で勤務する者の過半数は女性で、会社(水族館)への来館者も約6割が女性でした。

そのため、会社はセクハラ(セクシュアル・ハラスメント)の防止を重要課題として位置付け、毎年、全ての従業員に対して研修への参加を義務付けたり、セクハラ禁止文書を作成して従業員に配布・職場に掲示したりして、セクハラを防止するための取組を行っていました。

就業規則には、社員の禁止行為の1つとして、「会社の秩序又は職場規律を乱すこと」が掲げられ、これに違反した社員には、その違反行為の軽重によって、戒告、減給、出勤停止又は懲戒解雇の懲戒処分を行うことが定められていました。

また、社員が「就業規則などに定める服務規律にしばしば違反したとき」は、減給又は出勤停止とすることが定められていました。

会社が従業員に配布、職場に掲示したセクハラ禁止文書には、禁止行為として次の内容等が列挙されていました。

また、これらの行為が就業規則の禁止行為に含まれること、セクハラをした者には、行為の具体的態様(時間、場所、内容、程度)、当事者同士の関係(職位等)、被害者の対応(告訴等)、心情等を総合的に判断して処分を決定すること、が記載されていました。

従業員X1、X2は、従業員A、Bに対して、別紙のセクハラ発言をしました。

なお、従業員X2には、以前から女性従業員への言動に対して多数の苦情が出ており、異動の際に、上司から女性従業員への言動に気を付けるよう注意されていました。

女性従業員Aが退職するに当たって、セクハラ行為を受けたと会社に申告しました。

会社は従業員X1、X2から事情聴取を行った上で、従業員X1には30日間の出勤停止、従業員X2には10日間の出勤停止の懲戒処分を言い渡しました。

また、会社は資格等級制度規程に基づいて、従業員X1、X2が出勤停止処分を受けたことを理由にして等級を1等級降格し、それぞれの役職を解任しました。

会社は出勤停止処分及び降格に伴い、従業員X1、X2の給与と賞与を減額しました。

これに対して従業員X1、X2が、会社は懲戒権を濫用したものとして、出勤停止処分と降格の無効を主張し、降格前の等級を有することの確認等を求めて、会社を提訴しました。

海遊館セクハラ事件 判決の概要

従業員X1は責任者の立場にありながら、別紙1のとおり、従業員Aが1人で勤務している際に、自らの不貞相手に関する性的な事柄や自らの性器、性欲について殊更に具体的な話をする等、極めて露骨で卑わいな発言を繰り返していた。

また、従業員X2は、上司から女性従業員への言動に気を付けるよう注意されていたにもかかわらず、別紙2のとおり、従業員Aの年齢や結婚していないことを殊更に取り上げて著しく下品な言い方で侮辱し、困惑させる発言を繰り返し、従業員Aの給与が少なく夜の副業が必要とからかう発言をしていた。

従業員X1、X2が1年余にわたって繰り返したこのような発言は、いずれも女性従業員に対して強い不快感、嫌悪感、屈辱感等を与えるもので、女性従業員に対する言動として極めて不適切なものである。また、就業環境を著しく害し、女性従業員の就業意欲の低下や能力発揮の阻害を招くものである。

しかも、会社はセクハラの防止を重要課題として位置付け、セクハラ禁止文書を作成して、これを従業員に周知したり、毎年、全ての従業員に研修への参加を義務付けたり、セクハラを防止するための取組を種々行っていた。

従業員X1、X2は研修を受けただけではなく、管理職として会社の方針や取組を十分に理解し、セクハラを防止するために部下を指導する立場にあったにもかかわらず、女性従業員に対して、1年余にわたって多数回のセクハラ行為を繰り返した。その職責や立場に照らして、著しく不適切である。

そして、従業員Aは、セクハラ行為が一因となって退職を余儀なくされた。管理職である従業員X1、X2が女性従業員に対して反復継続的に行った極めて不適切なセクハラ行為が、企業秩序や職場規律に及ぼした有害な影響は看過できない。

原審は、従業員X1、X2が従業員Aから明白な拒否の姿勢を示されておらず、このような言動が許されていると誤信していたとして、従業員X1、X2に有利な事情としてしんしゃくした。

しかし、職場におけるセクハラ行為は、被害者が著しい不快感や嫌悪感を抱きながらも、職場の人間関係の悪化を懸念して、加害者への抗議や抵抗、会社への被害の申告を差し控えたり、躊躇したりすることが考えられる。

仮にそのような事情があったとしても、本件セクハラ行為の内容に照らせば、そのことをもって従業員X1、X2に有利にしんしゃくすることは相当ではない。

また、原審は、従業員X1、X2が懲戒処分を受ける前に、セクハラに対する会社の具体的な方針を認識する機会がなく、事前に会社から警告や注意を受けていなかったとして、これも従業員X1、X2に有利な事情としてしんしゃくした。

しかし、管理職である従業員X1、X2は、セクハラの防止やこれに対する会社の方針や取組を当然に認識するべき立場にあった。

また、従業員Aが会社に被害を申告するまで1年余にわたって、従業員X1、X2がセクハラ行為を継続していたこと、セクハラ行為が第三者のいない状況で行われており、会社は被害の申告を受ける前に、セクハラ行為の被害の事実を具体的に認識して警告や注意をする機会がなかった。

したがって、懲戒処分を受ける前の経緯について、従業員X1、X2に有利にしんしゃくすることは相当ではない。

以上によれば、従業員X1、X2が過去に懲戒処分を受けたことがなく、出勤停止処分が結果として相応の給与が減額されたことを考慮しても、従業員X1を出勤停止30日、従業員X2を出勤停止10日とした出勤停止処分が懲戒処分として重過ぎて、社会通念上相当性を欠くものではない。

会社が行った出勤停止処分は、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当であると認められるから、懲戒権を濫用したものではなく、有効である。

次に、会社は出勤停止処分を受けたことを理由に、従業員X1、X2の等級を降格した。資格等級制度規程には、降格事由の1つとして就業規則に定める懲戒処分を受けたことが規定されており、出勤停止処分は有効であるから、従業員X1、X2には降格事由に該当する事情があった。

資格等級制度規程は、社員の心身の故障や職務遂行能力の不足など、その等級に求められる適格性を欠く事由と並んで、社員が懲戒処分を受けたことを独立の降格事由として定めている。

その趣旨は、社員が企業秩序や職場規律を害する行為をして懲戒処分を受けたときに、企業の秩序や規律を保持するために降格するものであるから、現に違反行為が事実で懲戒処分が有効であれば、その定めは合理性がある。

そして、従業員X1、X2が、管理職としての立場を顧みず、女性従業員に対して極めて不適切なセクハラ行為を繰り返したことにつき、懲戒解雇の次に重い出勤停止処分が決定されたことから、会社が従業員X1、X2をそれぞれ1等級降格したことは、社会通念上著しく相当性を欠くものではない。

これは、降格に伴って、課長代理の地位が失われて、相応の給与が減額されたことを考慮しても、左右されるものではない。

以上によれば、会社が従業員X1、X2に対して行った出勤停止処分を理由とする降格は、人事権を濫用したものではなく、有効である。

海遊館セクハラ事件 解説

セクハラ行為をした従業員に対して、会社が出勤停止処分と降格をしたところ、処分が重過ぎるとして従業員が無効を訴えた裁判例です。

労働契約法の第15条において、客観的で合理的な理由がなく、社会通念上相当であると認められない場合は、懲戒処分は無効になることが定められています。

要するに、違反行為の程度と懲戒処分の重さが釣り合っていないといけないということです。懲戒処分が厳し過ぎると無効と判断されます。

この最高裁判決の原審の高裁では、従業員によるセクハラ行為の事実は認めていたのですが、

  1. 被害女性が明確に拒否を示していなかったことから、加害従業員がセクハラ行為は許されていると誤信していたこと
  2. 懲戒処分を受ける前に、会社から警告や注意を受けていなかったこと
  3. 過去に懲戒処分を受けたことがなかったこと

を考慮して、会社が行った出勤停止処分と、それに伴う降格は無効と判断しました。しかし、最高裁では、

  1. セクハラ被害を受けた者は、職場の人間関係の悪化を懸念して、被害の申告を躊躇う場合があること
  2. 会社は被害の申告を受けるまで、セクハラ行為を知らなかったこと
  3. 管理職は会社のセクハラ防止の方針や取組を認識するべきであったこと

から、高裁の判決を覆して、出勤停止処分と降格は有効と判断しました。

セクハラの被害は会社に申告しにくいケースがあることから、加害者による「本人はセクハラ行為(セクハラ発言)を嫌がっていなかった」という言い訳は通用しないことが明らかになりました。

また、会社から事前に個別に警告や注意をしていなくても、研修への参加を義務付けたり、セクハラ禁止文書を作成したりして、セクハラを防止するための取組をしていれば、懲戒処分は有効と判断されやすくなります。

会社においてセクハラ行為を生じさせないため、また、セクハラ行為が生じたときに適切に対応するために、

などが重要になります。

【別紙1】従業員X1の行為一覧表

  1. 従業員X1は、平成23年、従業員Aが精算室において1人で勤務している際、同人に対し、複数回、自らの不貞相手と称する女性(以下、単に「不貞相手」という。)の年齢(20代や30代)や職業(主婦や看護師等)の話をし、不貞相手とその夫との間の性生活の話をした。
  2. 従業員X1は、平成23年秋頃、従業員Aが精算室において1人で勤務している際、同人に対し、「俺のん、でかくて太いらしいねん。やっぱり若い子はその方がいいんかなあ。」と言った。
  3. 従業員X1は、平成23年、従業員Aが精算室において1人で勤務している際、同人に対し、複数回、「夫婦間はもう何年もセックスレスやねん。」、「でも俺の性欲は年々増すねん。なんでやろうな。」、「でも家庭サービスはきちんとやってるねん。切替えはしてるから。」と言った。
  4. 従業員X1は、平成23年12月下旬、従業員Aが精算室において1人で勤務している際、同人に対し、不貞相手の話をした後、「こんな話をできるのも、あとちょっとやな。寂しくなるわ。」などと言った。
  5. 従業員X1は、平成23年11月頃、従業員Aが精算室において1人で勤務している際、同人に対し、不貞相手が自動車で迎えに来ていたという話をする中で、「この前、カー何々してん。」と言い、従業員Aに「何々」のところをわざと言わせようとするように話を持ちかけた。
  6. 従業員X1は、平成23年12月、従業員Aに対し、不貞相手からの「旦那にメールを見られた。」との内容の携帯電話のメールを見せた。
  7. 従業員X1は、休憩室において、従業員Aに対し、従業員X1の不貞相手と推測できる女性の写真をしばしば見せた。
  8. 従業員X1は、従業員Aもいた休憩室において、本件水族館の女性客について、「今日のお母さんよかったわ…。」、「かがんで中見えたんラッキー。」、「好みの人がいたなあ。」などと言った。

【別紙2】従業員X2の行為一覧表

  1. 従業員X2は、平成22年11月、従業員Aに対し、「いくつになったん。」、「もうそんな歳になったん。結婚もせんでこんな所で何してんの。親泣くで。」と言った。
  2. 従業員X2は、平成23年7月頃、従業員Aに対し、「30歳は、22、3歳の子から見たら、おばさんやで。」、「もうお局さんやで。怖がられてるんちゃうん。」、「精算室に従業員Aさんが来たときは22歳やろ。もう30歳になったんやから、あかんな。」などという発言を繰り返した。
  3. 従業員X2は、平成23年12月下旬、従業員Aに対し、Cもいた精算室内で、「30歳になっても親のすねかじりながらのうのうと生きていけるから、仕事やめられていいなあ。うらやましいわ。」と言った。
  4. 従業員X2は、平成22年11月以後、従業員Aに対し、「毎月、収入どれくらい。時給いくらなん。社員はもっとあるで。」、「お給料全部使うやろ。足りんやろ。夜の仕事とかせえへんのか。時給いいで。したらええやん。」、「実家に住んでるからそんなん言えるねん、独り暮らしの子は結構やってる。MPのテナントの子もやってるで。チケットブースの子とかもやってる子いてるんちゃう。」などと繰り返し言った。
  5. 従業員X2は、平成23年秋頃、従業員A及び従業員Bに対し、具体的な男性従業員の名前を複数挙げて、「この中で誰か1人と絶対結婚しなあかんとしたら、誰を選ぶ。」、「地球に2人しかいなかったらどうする。」と聞いた。
  6. 従業員X2は、セクハラに関する研修を受けた後、「あんなん言ってたら女の子としゃべられへんよなあ。」、「あんなん言われる奴は女の子に嫌われているんや。」という趣旨の発言をした。