宮城県立高校教諭(退職手当支給制限)事件

宮城県立高校教諭(退職手当支給制限)事件 事件の経緯

宮城県の公立高校の教員が、同僚の歓迎会に参加して、グラスビール1杯、日本酒3合、中ジョッキビール1杯程度の飲酒をして、そのまま自家用車を運転して帰宅する途中で、車両と衝突して物損事故を起こしました。教員は、酒気帯び運転で現行犯逮捕されて、氏名及び職業が報道されました。

宮城県の条例には、懲戒免職処分を受けて退職する者については、退職者の職責、勤務状況、違反行為の内容・程度、経緯、違反行為後の退職者の言動、公務に及ぼす支障の程度・信頼に及ぼす影響を勘案して、退職手当の全部又は一部を不支給とする旨が定められていました。

また、宮城県の教職員が酒気帯び運転や酒酔い運転で検挙される事例が相次いでいたことから、宮城県教育委員会はその前年に通知を発出して、今後、飲酒運転に対する懲戒処分は厳格に運用する方針を示していました。

宮城県教育委員会は教員に対して、懲戒免職の処分とともに、約1700万円の退職手当の全額を不支給とする処分を決定しました。

これに対して教員が、裁量権を逸脱又は濫用するものであると主張して、退職手当の全額を不支給とする処分の取消しを求めて、宮城県を提訴しました。

宮城県立高校教諭(退職手当支給制限)事件 判決の概要

原審は、懲戒免職処分は適法とした上で、次のとおり判断し、退職手当の全額を不支給とする処分の取消しを一部認容した。

違反行為の内容及び程度から、退職手当が大幅に減額されることはやむを得ない。しかし、宮城県の条例は、退職手当には勤続報償の性格だけではなく、賃金の後払いや退職後の生活保障の性格もあることから、退職手当の減額処分をするときに、長年勤続する職員の権利にも配慮することを求めるものと考えられる。

教員が管理職ではなく、過去に懲戒処分歴がないこと、約30年間誠実に勤務してきたこと、物損事故で被害が回復されたこと、反省していること等を考慮すると、全額を不支給とする処分は、教員に著しい不利益を与えるもので、退職手当の3割に相当する額を不支給とした部分は、裁量権の範囲を逸脱した違法なものであると認められる。

しかし、原審の判断は是認できない。その理由は、次のとおりである。

宮城県の条例によって支給される退職手当は、勤続報償的な性格を中心としつつ、賃金の後払い的な性格や生活保障的な性格も有するものと考えられる。

また、退職手当の減額処分の規定は、個々の事案ごとに、退職者の功績や違反行為の内容及び程度など、諸般の事情を総合的に勘案し、賃金の後払い的な性格や生活保障的な性格を踏まえても、退職者の勤続の功績を抹消・減殺するような事情があった場合は、退職手当を減額できる旨を規定したものと考えられる。

そして、社会観念上妥当ではなく裁量権を逸脱又は濫用したと認められる場合は、退職手当の減額処分は違法と判断するべきである。

以上を踏まえて、退職手当の全額を不支給とした処分の適否について検討すると、教員は、自家用車で歓迎会に向かい、相当量の飲酒をして、そのまま自家用車を運転して帰宅する途中で、過失により物損事故を起こした。

公立高校の教員の立場にありながら、酒気帯び運転という犯罪行為に及んだもので、公立高校は生徒や保護者に説明するため、集会を開く等の対応を余儀なくされた。また、生徒への影響も大きく、公立高校に対する信頼に重大な影響を及ぼすものであった。

更に、違反行為の前年に、飲酒運転の抑止を図るために、宮城県教育委員会が通知を発出したりして、飲酒運転に対する懲戒処分は厳格に対応すると注意喚起していたとことも軽視できない。

以上によれば、退職手当の全額を不支給とする処分は、教員が管理職ではなく、過去に懲戒処分歴がないこと、約30年間誠実に勤務してきたこと、反省していること等を勘案しても、裁量権を逸脱又は濫用したものとは言えない。

宮城県立高校教諭(退職手当支給制限)事件 解説

公立高校の教員が、飲酒運転をして物損事故を起こしたことを理由に、宮城県(教育委員会)が、懲戒免職(一般企業の懲戒解雇)及び退職手当(退職金)の全額不支給の処分を行いました。

飲酒運転が重大な違反行為であることは明らかですが、普通に退職すれば約1700万円の退職金が支給されるところ、全額が不支給になって、どこまでの処分が許されるのかが争点になりました。

ところで、退職金には、次の3つの性格があります。

  1. 功労報償…長年の勤務に対する報償として支給
  2. 賃金の後払い…在職中の労働の対償として支給
  3. 生活保障…退職後の生活を保障するために支給

重大な違反行為をした者については、功労報償として「お疲れ様」「ご苦労様でした」という意味合いで支給する部分はゼロにできます。しかし、賃金の後払いや生活保障として支給する部分については、その性質上、重大な違反行為をした場合であっても、原則的には減額できません。

一般企業で作成している退職金規程(就業規則)を見ると、懲戒解雇をした従業員については、退職金を減額・不支給とする規定を設けているものが多いです。

これまでの裁判例では、退職者の過去の功績・功労を無にするような違反行為(例えば、100万円を超える横領等)があれば、退職金を全額不支給にすることが認められています。

しかし、横領と違って飲酒運転は、会社に対する背信行為ではありませんので、全額を不支給とすることについては、判断が分かれます。この裁判でも、原審の高等裁判所は3割の支給は認めるべきと判断していました。

程度の問題で主観によりますので、裁判所の判断を予測することは困難ですが、一般企業に置き換えて考えると、飲酒運転で物損事故を起こした場合、退職金は3割の支給を基準として、飲酒運転に関してどの程度の防止措置を講じていたのか、本人の役職、勤務状況、懲戒処分歴、反省の有無、信用失墜の程度等の諸事情を考慮して、その都度、支給額を決定することになると思います。

なお、中退共に加入して退職金を積み立てている場合は、中退共に対して退職金の減額を申し出ることができます。

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