横浜ゴム事件

横浜ゴム事件 事件の経緯

深夜に従業員が酩酊した状態で、風呂場の扉を開けて他人の住居に侵入したところ、住人に見付かって、逮捕されました。

従業員は住居侵入罪として、2,500円の罰金(昭和40年当時)が科されて、従業員が逮捕されたという噂が会社の内外に広まりました。

会社は、就業規則の「不正不義の行為を犯し、会社の体面を著しく汚した者」という懲戒解雇の事由に該当することを理由に、従業員を懲戒解雇しました。

これに対して従業員が、懲戒解雇は無効であると主張して、雇用関係が存続していることの確認を求めて会社を提訴しました。

横浜ゴム事件 判決の概要

就業規則の懲戒の規定の趣旨に照らして考えると、

などの諸事情を勘案すれば、従業員の行為が会社の体面を著しく汚したと認めることはできない。

横浜ゴム事件 解説

従業員が私生活で犯罪行為をして、それを理由に行った懲戒解雇が、有効か無効か争われた裁判例です。

会社は職場の秩序を維持する必要があることから、懲戒処分を行う権限が生じると考えられています。そのため、本来は、従業員の私生活での言動に対して(それを直接の理由として)、会社は懲戒処分を行うことはできません。

ただし、私生活での言動であったとしても、それによって、職場の秩序を乱すことに繋がったり、会社の信用が失墜して業務に支障が生じたりする場合は、例外的に懲戒処分を行えます。

裁判では、私生活の行為で、罰金刑に止まり、会社では指導的な地位でなかったことを挙げて、「会社の体面を著しく汚した」という就業規則の懲戒解雇の事由には当たらないと判断しました。

反対に、懲役刑が科されたり、課長や部長等の役職者であれば、懲戒解雇は有効と認められる可能性があります。

「会社の体面を著しく汚した」の程度と懲戒処分の内容が釣り合っていることがポイントになります。この裁判では、懲戒解雇は無効と判断されましたが、出勤停止であれば認められたかもしれません。

釣り合っているかどうかは主観の問題ですので、懲戒処分を行う際は、会社は難しい決断が求められます。当事者になると余計に難しいので、第三者の意見を聴くことも大事です。

判決では触れられていませんでしたが、このケースでは、会社の業務に支障が生じたとは認められませんでした。従業員の私生活の犯罪行為等の噂が世間に広まって、実際に業務に支障が生じていれば、「会社の体面を著しく汚した」と認められやすくなります。

なお、性犯罪については、他の従業員が一緒に仕事をすることに抵抗を感じやすく、職場の秩序を乱すものとして、他の犯罪と比べて、懲戒解雇は有効と認められやすい傾向があります。

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