西日本鉄道事件

西日本鉄道事件 事件の経緯

運輸業を営む会社の就業規則に、乗務員による乗車賃の着服を摘発、防止するために、「社員が業務の正常な秩序維持のためその所持品の検査を求められたときは、これを拒んではならない。」という規定が設けられていました。

この「所持品」とは、身に着けている全ての物として、乗務員の鞄等の携帯品、着衣、帽子、靴の中まで検査していました。

所持品検査に関してトラブルが生じたため、会社と労働組合の間で話合いが行われ、所持品検査の際は靴を脱いで靴の中も検査することが改めて確認されました。労働組合はこの内容を機関紙に掲載して、組合員(従業員)に周知しました。

従業員(組合員)は、乗車勤務が終了した直後に所持品検査を受けたのですが、靴は所持品ではない、本人が承諾しなければ靴の中の検査はできないと主張して、帽子とポケット内の携帯品を差し出しただけで、靴を脱ぐことは応じませんでした。

これは就業規則に違反する行為で、更に、懲戒解雇の事由の「職務上の指示に不当に反抗し、職場の秩序を乱したとき」に該当すると判断して、会社は従業員を懲戒解雇しました。

これに対して従業員が、解雇権の濫用であると主張して、解雇の無効を求めて会社を提訴しました。

西日本鉄道事件 判決の概要

会社が金品の着服を摘発したり、防止したりするために行う所持品検査は、従業員の基本的人権に関する問題であって、常に人権侵害の恐れを伴う。

したがって、それが企業を経営・維持するために必要かつ効果的な措置であり、同業他社で広く行われているとしても、また、それが就業規則に基づいて行われ、労働組合又は従業員の過半数の同意があるとしても、それだけでは適法とはならない。

所持品検査は、これを必要とする合理的な理由に基づいて、一般的に妥当な方法と程度で、更に、制度として従業員に対して画一的に実施されなければならない。

そして、所持品検査が就業規則に基づいて行われるときは、それに代わる措置があったとしても、所持品検査の方法や程度が妥当を欠く等、特段の事情がない限り、従業員は検査を受ける義務がある。

就業規則の所持品検査は靴の中の検査を含むものと考えられ、その方法や程度が妥当を欠いていたという事情は認められない。

したがって、従業員がこれを拒否したことは、就業規則の規定に違反する。また、就業規則の懲戒解雇の事由の「職務上の指示」には、所持品検査を受ける旨の指示も含まれる。

そして、懲戒解雇に至るまでの経緯や情状等を考慮すると、所持品検査を拒否したことは、就業規則の懲戒解雇の事由に該当すると認められる。

西日本鉄道事件 解説

従業員が所持品検査を拒否したことを理由にして、会社が懲戒解雇をして、裁判になったケースです。

靴を脱がせて靴の中まで検査できるのか、所持品検査を拒否したことを理由にして行った懲戒解雇が有効なのか、が争点になりました。

現金や消費財を取り扱う職場では、所持品検査を実施している場合があります。会社としては「やましいことがなければ所持品検査を受けられるだろう」と思うかもしれませんが、そのような考え方は通用しません。

所持品検査は、プライバシー権や人権の問題がありますので、慎重に行う必要があります。所持品検査について、同業他社で行われているとしても、就業規則で規定しているとしても、労働組合や従業員の過半数の同意を得ているとしても、それだけでは不十分です。

この裁判では、更に、次の条件を全て満たしている場合に、従業員に対して、所持品検査を受けるよう義務付けられることが示されました。

  1. 所持品検査を必要とする合理的な理由があること
  2. 一般的に妥当な方法と程度で実施すること
  3. 制度として画一的に実施すること

この会社では、実際に着服が行われていて、所持品検査によって摘発したことがありましたので、所持品検査を必要とする合理的な理由がありました。また、靴を脱いで検査することについて、労働組合と合意して行ったものですので、妥当な方法と程度でした。また、所持品検査は画一的に実施していて、拒否をしたのはこの従業員だけでした。

この裁判では、従業員には所持品検査を受ける義務があったと判断した上で、経緯や情状等を考慮して懲戒解雇は有効と認めました。

仮に、会社が所持品検査を義務付けられる状況で、従業員が拒否したとしても、その後、従業員が考えを改めて反省している場合は、懲戒解雇は厳し過ぎて認められないと思います。

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