炭研精工事件

炭研精工事件 事件の経緯

入社して数年後に、従業員が公務執行妨害罪で逮捕、拘留されて、会社を9日間欠勤しました。なお、この事件については後に不起訴処分になりました。

会社がその調査をする過程で、従業員は大学を中退していた(除籍されていた)事実が発覚しました。会社が募集していた当時は、高校卒業者又は中学卒業者のみを対象としていて、従業員は履歴書に最終学歴を「高校卒業」と記載して提出していました。

また、採用面接の際は、別の公務執行妨害罪、凶器準備集合罪、傷害罪等で起訴され、公判が係属中(保釈中)だったのですが、履歴書には「賞罰なし」と記載し、面接でも「賞罰はない」と答えていました。この事件については入社後に、有罪判決(執行猶予付の懲役刑)が下されました。

会社は、犯罪行為、経歴詐称等が就業規則の懲戒解雇の事由に該当するとして、従業員を懲戒解雇しました。

これに対して従業員が、懲戒解雇は無効であると主張して、地位の確認を求めて、会社を提訴しました。

炭研精工事件 判決の概要

原審において確定した事実関係の下で、本件解雇を有効とした原審の判断は正当と認められる。

原審は、従業員が懲役刑を受けたこと、及び、雇い入れられる際に学歴を偽ったことが就業規則の懲戒解雇の事由に該当するとした上で、従業員の言動を情状として考慮し、本件解雇が解雇権の濫用に当たらないと判示した。

炭研精工事件 判決の概要(原審)

雇用関係とは、従業員と会社の信頼関係を基礎とした継続的な契約関係である。そのため、会社が雇用契約を締結する前に、雇用しようとする従業員に対して、企業秩序の維持に関係する事項について申告を求めた場合は、信義則上、従業員は真実を告知する義務がある。

経歴詐称を懲戒解雇の事由とする就業規則の規定も、これを前提とするものと考えられる。

そして、最終学歴は、企業秩序の維持に関係する事項であるから、従業員は真実を申告する義務があった。

刑事事件の公判が係属中(保釈中)である場合は、保釈が取り消されたり、実刑判決を受けて収監されたりして、勤務できなくなる可能性があった。また、公判に出頭するために欠勤しなければならない。このような事項は、会社が採用の可否を決定する上で重要な要素となる。

しかし、履歴書の賞罰欄の罰とは、一般的には確定した有罪判決を指すから、採用面接の際に「賞罰はない」と答えたことは事実に反しない。また、採用面接の際に具体的に質問を受けていなければ、自ら積極的に公判が係属中の事実を申告する義務はない。

したがって、従業員が大学中退の学歴を隠して雇用されたことは、経歴詐称(就業規則の懲戒解雇の事由)に該当するが、公判が係属中であると告げなかったことは経歴詐称に該当しない。

ただし、執行猶予付きの懲役刑を受けたことは、禁固以上の刑に処せられたときという就業規則の懲戒解雇の事由に該当する。また、犯罪行為は社会的に強く非難される行為であって、会社の社会的信用を失墜し、他の従業員に悪影響を及ぼす恐れがある。

従業員は有罪の確定判決を受けた後も、自己の行動に対する反省の態度が見受けられず、依然として、自己の主張が正しく、既成の社会秩序を否定する考えが強く残っていたと言わざるを得ない。

これらの事情を考慮すると、会社における従業員の地位や職務内容を斟酌しても、懲戒解雇は相当で、権利の濫用には当たらない。

炭研精工事件 解説

経歴詐称を理由とする懲戒解雇について、裁判になったケースです。

経歴詐称は労使間の信頼関係を損なう行為ですので、一般的な就業規則にも懲戒解雇の事由として挙げられています。また、経歴を詐称していると、適正な配置や賃金の決定を誤らせたりして、企業の秩序を乱すことにも繋がります。

この事件では、実際には大学を中退していたのですが、当時の募集対象者が高校卒業者又は中学卒業者となっていたため、高校卒業と学歴を偽って採用されました。

裁判では、経歴詐称(学歴詐称)は就業規則の懲戒解雇の事由に該当すると判断したのですが、懲役刑の有罪判決を受けた事実、従業員の情状を考慮した上で、懲戒解雇を有効と判断しました。

経歴詐称を理由に懲戒解雇をする場合は、原則として、その事実を知っていたら採用しなかったというものでなければ有効と認められません。

実際に大学を中退していたにもかかわらず、「大学卒業」と偽ることは問題があります。大学卒業者を募集している会社に、「大学中退です」と言って応募してきた者は、当然不採用となるでしょう。

しかし、高校卒業者を募集している会社に、「大学中退です」と言って応募してきた者については、それだけを理由に不採用とするケースは少ないように思います。

この裁判でも、有罪判決という別の懲戒解雇事由がなければ、懲戒解雇は無効と判断された可能性があります。

学歴を詐称した事実が発覚しただけで、協調性があり、能力的にも問題なく何年も勤務している場合は、解雇は控えた方が良いでしょう。能力的に他の従業員より劣っていなければ、そもそも募集時に学歴を限定する必要があったのかと問われることになります。

また、履歴書の賞罰欄の罰については、確定した有罪判決を記載すれば足りるとしています。

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