山口観光事件

山口観光事件 事件の経緯

従業員が体調不良を理由にして、「翌日から2日間の休暇を取得したい」と会社に申し出ました。

会社は、就業規則の懲戒事由の「正当な理由なく、しばしば無断欠勤し、業務に不熱心であるとき」に該当すると判断して、従業員を懲戒解雇しました。

これに対して従業員が、懲戒解雇は懲戒権を濫用するもので無効であると主張して、地位の確認と未払い賃金の支払いを求めて、会社を提訴しました。

そして、裁判が進行している中で、従業員が採用時に提出した履歴書の年齢を詐称(当時57歳を45歳と詐称)していた事実が判明しました。

最初の懲戒解雇をしてから約7ヶ月後に、会社は、仮に最初の懲戒解雇が無効であるとしても、年齢の詐称については、就業規則の懲戒事由の「重要な経歴を偽り、その他不正な手段により入社したとき」に該当するとして、予備的に懲戒解雇を行うことを主張しました。

山口観光事件 判決の概要

会社が従業員に対して行う懲戒は、従業員の企業秩序に違反する行為を理由として、一種の制裁罰を課すものであるから、具体的な懲戒の適否は、違反行為との関係によって判断される。

懲戒処分を行った当時に、会社が認識していなかった違反行為は、懲戒の理由としていないことは明らかであるから、それを懲戒の理由に追加することはできない。

これを本件に当てはめると、従業員が休暇を請求したこと等を理由として、懲戒解雇を行った。その懲戒解雇を行った当時は、会社は従業員の年齢詐称の事実を認識していなかったのであるから、年齢詐称を懲戒解雇の理由に追加することはできない。

山口観光事件 解説

会社が行った懲戒解雇(懲戒処分)が有効か無効か争われた裁判例で、会社が後から知った違反行為をその懲戒解雇(懲戒処分)の事由に追加できるかどうかが争点になりました。

労働契約法(第15条)によって、会社が懲戒処分を行う際は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、無効になることが定められています。要するに、違反行為と懲戒処分の内容が客観的に見て釣り合っていることが求められます。

また、同様に、労働契約法(第16条)によって、会社が従業員を解雇する際は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない場合は、無効になることが定められています。要するに、「解雇されても仕方がない」と客観的に認められるような違反行為が必要ということです。

それで、当初は、従業員が懲戒解雇(懲戒処分)の無効を主張する普通の裁判だったのですが、裁判が進行する中で、従業員が年齢を詐称していた事実が判明しました。そのため、年齢の詐称を、最初の懲戒解雇の事由に追加できるかどうかが争点になりました。

最初の懲戒解雇をした当時に、会社が知らなかった違反行為は、懲戒解雇の理由としていなかったことは明らかですので、後から知った違反行為は、懲戒解雇の事由に追加できないと判断しました。

本件においては、結果的に、最初の懲戒解雇は無効、年齢詐称を理由とする懲戒解雇は意思表示をした時点で有効になると判断しました。

そして、最初の懲戒解雇をしてから約7ヶ月後に、会社は年齢詐称を理由とする懲戒解雇の意思表示をしていましたので、約7ヶ月間は従業員としての地位があったと認められて、会社にはその間の賃金の支払いが命じられました。

懲戒事由は後から追加できませんので、懲戒処分を行う際は、会社が確認した違反行為は全て従業員に明らかにしておく必要があります。

同様に、従業員から解雇理由証明書の提出を求められた場合は、後から解雇事由を追加することは難しいので、解雇事由を漏れなく記載することが大事です。

また、懲戒処分を行う際は、本人に弁明の機会を与えることが欠かせません。会社が知らなかった違反行為については、その時点では弁明の機会を与えることは不可能ですので、このことからも、懲戒事由はさかのぼって追加できないと考えることができます。

裁判になったケースで言うと、最初の懲戒解雇を行った際に、年齢詐称に関する弁明の機会を与えていませんので、その時点においては、年齢詐称を懲戒解雇の事由とすることはできせん。

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