小田急電鉄(退職金請求)事件
小田急電鉄(退職金請求)事件 事件の経緯
鉄道会社の従業員が痴漢行為をして、逮捕されて、略式起訴されました。その半年後に再び痴漢行為をして逮捕、正式起訴されて、執行猶予付きの判決を受けました。
鉄道会社は、就業規則の懲戒条項に基づいて懲戒解雇を行うと共に、退職金規程の不支給条項に基づいて退職金を支払いませんでした。
これに対して従業員が、懲戒解雇は無効である、退職金の全額不支給は厳し過ぎると主張して、労働契約上の地位の確認と退職金の支払いを求めて、会社を提訴しました。
小田急電鉄(退職金請求)事件 判決の概要
鉄道会社の従業員は、電車内における乗客の迷惑や被害を防止すべき立場にあり、従事する職務に伴う倫理規範として、そのような行為を決して行ってはならない。
しかも、従業員は、痴漢行為の半年前に、同種の痴漢行為で罰金刑に処せられ、会社から昇給停止及び降職の処分を受けた。その際、今後、このような不祥事を発生させた場合は、いかなる処分にも従うので、寛大な処分をお願いしたい旨の始末書を提出していた。
このような事情から、痴漢行為が報道等の形で公になるかどうかは関係なく、懲戒解雇という最も厳しい処分となったとしても、やむを得ない。懲戒解雇の手続に欠陥はなく、処分の内容としても相当な範囲を逸脱したものと言えない。懲戒解雇は有効である。
そして、退職金の支給を制限する規定は、退職金が功労報償的な性格を有することに由来する。しかし、退職金は、賃金の後払い的な性格、従業員の退職後の生活保障という意味合いも有する。
特に、本件のように、退職金規程に基づき、給与及び勤続年数を基準として、支給条件を明確に規定している場合は、その退職金は、賃金の後払い的な意味合いが強い。
その場合、退職金の受給を見込んで、ローンによる住宅の取得等の生活設計を立てる従業員も多いと考えられる。そのような期待を剥奪するには、相当の合理的な理由が必要である。
そのような事情がない場合は、懲戒解雇の場合であっても、退職金の支給を制限する規定は全面的に適用しないで、一定割合の支給を認めるべきである。
その具体的な割合については、違反行為の性格、内容、懲戒解雇に至った経緯、従業員の過去の勤務態度等の諸事情に加え、会社における過去の支給事例等を考慮すると、本来の退職金の支給額の3割(約276万円)とするのが相当である。
小田急電鉄(退職金請求)事件 解説
鉄道会社の従業員が繰り返し痴漢行為をしたことを理由にして、会社が就業規則に基づいて懲戒解雇をして、退職金を全額不支給としました。退職金を全額不支給とする取扱いが妥当かどうか、裁判になったケースです。
鉄道会社の従業員は、立場上、電車内で乗客の迷惑や被害を防止する側の者ですので、痴漢行為は許されることではありません。再度の痴漢行為によって、逮捕・起訴されたことを理由とする懲戒解雇は有効であると判断しました。
そして、退職金規程を作成して、懲戒解雇をした者には退職金を支給しないと規定していたとしても、「懲戒解雇=退職金の全額不支給」は自動的に成立するものではありません。
退職金には、功労報償、賃金の後払い、退職後の生活保障という3つの性質があって、懲戒解雇によって功労報償の部分は減額できるとしても、他の賃金の後払いと退職後の生活保障の部分を減額するには、過去の功労を抹消する程度の相応の理由が必要です。
退職金をどれだけ減額できるかは、違反行為の性格、内容、懲戒解雇に至った経緯、従業員の過去の勤務態度、その会社の過去の支給事例等を考慮して決定することが示されました。
この裁判では、全額不支給とするほどではなく、本来の退職金額(勤続約20年で約900万円)の3割は支給するべきであると判断しました。
最終的には裁判によって、個別のケースごとに、諸事情を総合的に考慮して支給割合が決定されますので、事前に予測することは難しいです。諸事情を1つ1つ整理して慎重に検討する必要があります。
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