なるほど労働契約法
労働契約法は、次のとおり21条で構成された法律です。
労働契約法
第1章 総則
- 第1条 労働契約法の目的
- 第2条第1項 労働者の定義
- 第2条第2項 使用者の定義
- 第3条第1項 労働契約の原則
【関連する裁判例:片山組事件】 - 第3条第2項 均衡考慮義務
- 第3条第3項 ワークライフバランスの配慮義務
- 第3条第4項 労働契約の遵守、誠実義務
- 第3条第5項 権利濫用の禁止
- 第4条第1項 労働契約の内容の理解の促進
- 第4条第2項 労働契約の内容の書面による確認
- 第5条 安全配慮義務
【関連する裁判例:陸上自衛隊事件、陸上自衛隊第三三一会計隊事件、川義事件、三菱重工業 神戸造船所(難聴)事件、電通事件】
第2章 労働契約の成立及び変更
- 第6条 労働契約の成立
【関連する裁判例:パナソニックプラズマディスプレイ事件、小野田セメント事件(退職勧奨)、富士製鉄事件(退職勧奨)、下関商業高校事件(退職勧奨)、大隈鉄工所事件(退職の撤回)】 - 第7条 労働契約の内容と就業規則の関係
【関連する裁判例:秋北バス事件、電電公社 帯広局事件、日立製作所 武蔵工場事件、フジ興産事件、日本郵便(雇止め)事件】 - 第8条 労働契約の内容の変更
【関連する裁判例:山梨県民信用組合事件、駸々堂事件】 - 第9条 就業規則による労働契約の内容の変更
- 第10条 就業規則による労働契約の内容の変更の例外
【関連する裁判例:大曲市農協事件、第四銀行事件、みちのく銀行事件、第一小型ハイヤー事件(歩合給の計算方法)、タケダシステム事件(生理休暇)、御国ハイヤー事件(退職金)、朝日火災海上保険事件(組合員でない従業員)】 - 第11条 就業規則の変更手続
- 第12条 就業規則違反の労働契約
【関連する裁判例:北海道国際航空事件】 - 第13条 法令及び労働協約と就業規則の関係
第3章 労働契約の継続及び終了
- 第14条 出向
【関連する裁判例:新日本製鉄(日鉄運輸第2)事件、日東タイヤ事件(出向の条件)、古河電気工業事件(出向先からの復帰)、ゴールド・マリタイム事件(出向の目的)】 - 第15条 懲戒
【関連する裁判例:ダイハツ工業事件 、海遊館セクハラ事件 、関西電力事件(職場外の行為) 、中国電力事件(職場外の行為) 、札幌市衛生局事件(飲酒運転) 、相互タクシー事件(飲酒運転) 、横浜ゴム事件(職場外の犯罪行為) 、日本鋼管事件(職場外の犯罪行為) 、炭研精工事件(経歴詐称) 、西日本鉄道事件(所持品検査の拒否) 、日本ヒューレット・パッカード事件(精神的な不調) 、ネスレ日本事件(7年後の懲戒解雇) 、八戸鋼業事件(タイムカードの不正打刻) 、富士重工事件(調査の拒否) 、山口観光事件(懲戒事由の追加) 】 - 第16条 解雇
【関連する裁判例:日本食塩事件(ユニオン・ショップ協定) 、高知放送事件 、あさひ保育園事件(整理解雇) 、崇徳学園事件(損害の発生) 、学校法人松蔭学園事件(適格性の欠如) 、日本ユニカー事件(逮捕・拘留による長期欠勤) 、西武バス事件(バスの遅延) 、新宿郵便局事件(懲戒処分後の解雇) 】
第4章 期間の定めのある労働契約
- 第17条第1項 期間途中の解雇の禁止
【関連する裁判例:朝日建物管理事件】 - 第17条第2項 労働契約の反復更新
- 第18条第1項 有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換
【関連する裁判例:日立メディコ事件、福原学園(九州女子短期大学)事件】 - 第18条第2項 有期労働契約の空白期間
- 第19条 有期労働契約の更新等
【関連する裁判例:東芝柳町工場事件、進学ゼミナール予備校事件】 - 第20条(削除) 期間の定めがあることによる不合理な労働条件の禁止
【関連する裁判例:ハマキョウレックス事件、長澤運輸事件、メトロコマース事件、大阪医科大学事件、日本郵便事件(同一労働同一賃金)】
第5章 雑則
- 第20条 船員に関する特例
- 第21条第1項 公務員への適用除外
- 第21条第2項 同居の親族への適用除外
労働契約法の成立
労働契約法の成立の経緯
労働条件(労働時間や賃金、休暇など)の最低基準を定めた法律として労働基準法がありますが、最近は、解雇や賃下げというような労働基準法では対応できないトラブルが増えています。
このようなトラブルは最終的には裁判で決着するのですが、過去の裁判例の積み重ねによって、例えば、解雇が有効か無効かを判断するルール(「判例法理」と言います)が確立されているものがあります。
裁判ではこの判例法理に当てはめて判断されるのですが、このような判例法理は一般の従業員や企業経営者には余り知られていません。
そこで、判例法理を法律として整理して明らかにすることによって、労使間のトラブルを未然に防止することが期待されます。
このような背景から「労働契約法」が制定され、平成20年3月1日から施行されることになりました。
労働契約法の成立による企業への影響
労働契約法は判例法理を整理したものですので、労働契約法ができたからと言って、裁判所の判断に影響を与えることはありません。
また、労働契約法は労使の個別の合意を原則としている性質上、労働基準法のような罰則はなく、労働基準監督署による指導等もありません。
しかし、法律として根拠が示されたことになりますから、従業員側から見ると法律違反を指摘しやすくなります。つまり、企業としては今まで以上に慎重な対応が求められます。
労働契約法から漏れた裁判例(内容)
現行の労働契約法で定められているのは、以上のとおり22条で全部です。しかし、労働関係の判例法理は、これだけではありません。
労働契約法を制定する際に、検討されたけれども、見送られた内容がいくつかあります。その当時、労働契約法の成立を最優先にしたため、小さく生んで大きく育てようという話があったようです。
以下では、法制化が見送られたけれども、判例法理として一般化されている内容、裁判例を紹介しています。
どれも労働関係で無視できない内容ですし、将来、労働契約法に追加される可能性も残されています。これを知っていれば、更に労働契約法の知識が深まるはずです。
- 採用内定の取消し【関連する裁判例:大日本印刷事件、電電公社近畿電気通信局事件】
- 試用期間【関連する裁判例:三菱樹脂事件】
- トライアル雇用・試行雇用【関連する裁判例:神戸弘陵学園事件】
- 異動(転勤)【関連する裁判例:東亜ペイント事件、ケンウッド事件(通勤時間の増加)、川崎重工業事件(単身赴任)、帝国臓器製薬事件(単身赴任)、九州朝日放送事件(アナウンサーの配転命令)】
- 転籍【関連する裁判例:日立製作所事件】
- 競業避止義務【関連する裁判例:三佳テック事件】
- 損害賠償責任【関連する裁判例:茨城石炭商事事件】
- 整理解雇【関連する裁判例:東洋酸素事件(4要件)、ナショナル・ウエストミンスター銀行事件(4要素)、池貝鉄工事件(協議を拒否)】
- 変更解約告知【関連する裁判例:スカンジナビア航空事件】